Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
第一章 すべての始まり


 あ、また肌荒れしてる。

 浅倉(あさくら)想乃(その)は鏡のなかの自分を覗きこみ、おでこに触れた。あかい膨らみが指に触れて少しだけ痛みを伴う。

 先日変えたばかりの化粧水が肌に合っていないのだ。大きなボトルに入っていながら千円もしないなんて、いくらなんでも安価すぎた。朝の洗面台に佇んだまま重いため息がこぼれる。少量の洗顔料で顔をあらい、手早くベースメイクを済ませた。

 時計を確認してキッチンへ向かう。冷蔵庫を開けて昨夜準備した作り置きのおかずをふたり分、弁当箱に詰める。炊飯器からご飯をよそって、きちんと蓋を閉めてナフキンで包んだところでリビングの扉が開いた。

 「おはよう、姉ちゃん」

 眠そうにあくびをかみ殺しながら、弟の浅倉(あさくら)(ごう)がダイニングテーブルにスマホを置いた。カッターシャツの上にまだ学ランは羽織っておらず、椅子の背もたれに掛けている。

 「なによ、郷。また夜ふかし?」
 「そんなんじゃねーし。ただ眠れなかっただけ」

 せかせかと動き回る想乃を尻目に、郷がトースターに食パンを二枚並べた。「姉ちゃんもパンでいい?」と言いながら、タイマーを回している。

 「ごめん。早出だからいいや。郷だけ食べて?」
 「わかった」
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