Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
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始業時間のチャイムが鳴り、四十分を過ぎたところで一同はソファー席から立ち上がった。
「本日は常務さん自らがご来校いただき、誠にありがとうございました」
「いえいえ。また何かご質問等ございましたらお気軽にお問い合わせください」
「では失礼いたします」と一礼し、常務さんと呼ばれた男は中学校の応接室を後にした。
来年春以降に導入されるデジタル教材の実地試験のために、とある公立中学を訪れていた。『来校者』と書かれた黄色いパスケースとは別に、顔写真入りの社員証が揺れる。世間に名の知れた大手株式会社のものだ。
来客用玄関へ向かってスリッパを鳴らしていると、男子生徒の甲高い笑い声が耳についた。まだ声変わりをしていないようで小学生のような幼さの残る声だ。
気になってそちらに足を向ける。
「コイツ、昨日消しゴムのカスと雑草も食べたんだぜ〜?」
「だったらいけるよな、今日は特別にカマキリの卵を食べさせてやるよ」
「ギャハハ、意外とうまいんじゃね?」
「ほーら、採れたてほやほやの新鮮な卵だぞー」