Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 「今日は清掃の仕事もあるから帰りは夜になるけど」
 「大丈夫。晩御飯、適当に用意しとく」
 「ありがとう」

 キッチンに出した二本の水筒に水を入れ、そのうちの一本と今しがた包んだ弁当箱を郷が置いたスマホのそばに運んだ。

 「お弁当と水筒、忘れないでね。あと鍵もよろしく」
 「わかってるって」
 「じゃあ行ってくるね」
 「うん、いってらっしゃい」

 自分用の弁当箱と水筒を鞄に突っ込んでからバタバタと廊下を駆ける。が、すぐさま引き返した。

 リビングの扉のそばにある棚に向かって両手を合わせる。四角い写真立てにおさまった父の微笑を見つめ、「お父さん、行ってきます」と忘れずに挨拶をした。

 スニーカーに足を突っ込むと、玄関扉の前の黒い門扉に手を伸ばした。頬をなでる風に秋らしさを感じながら、近所にある勤務先のコンビニまで徒歩で向かう。

 単調でつまらない時間が今日も淡々と過ぎていく。

 *

 「いらっしゃいませ、こんにちは」

 来店ベルが鳴るたびに、視線を入口に飛ばした。商品をカウンターに運んだ客から順に、レジに取り掛かり、退店時までの挨拶をマスク越しに行う。
< 3 / 114 >

この作品をシェア

pagetop