Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 男は彼に近づき、ポケットからハンカチを差し出した。

「血が出てる」
「……え」

 少年はハンカチを取るべきか躊躇した。一見して高級そうな物だからこそ、触れて汚してはいけないと思っているようだ。

 男は首を傾げて嘆息し、少年の目尻や頬に滲んだ血を拭き取るためハンカチをあてた。

「それ冷やさないと腫れるだろうね」と言い、少年の手にハンカチを握らせる。

「お姉さんが心配するよ?」
「……っえ、」

 少年は目を見張り、再三男を凝視した。営業マンと名乗る男の風貌をまじまじと観察する。

「きみ、浅倉(あさくら)(ごう)くんだよね? 浅倉想乃さんの弟くん。そうでしょ?」
「っね、姉ちゃんのこと、知ってるんですか?」
「……うん。まぁね。友達だから」
「友達……。姉ちゃんの」

 少年、もとい浅倉郷は男から借りたハンカチを握りしめ沈黙している。

「今日はちょうど仕事で八木沢中学校に出向いていたんだけど。偶然彼らを目撃しちゃって。あのあと彼らがここに集まる計画を立てていたから、お灸をすえに来たってわけ」

 それっぽく理由を話しているけれど、実際のところはそうではない。男はすらすらと嘘をでっち上げた。

「じ、じゃあ。あいつらのことを警察に言うっていうのはやっぱり冗談で」
「いいや? ちゃんと署に突き出すよ」
「え……」
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