Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 想乃は日頃より感じている不安から苛々を募らせ、つい郷の言葉を遮っていた。

 ひと口サイズに切った鶏皮をじゅうじゅうと焼きながら厳しい目を向ける。郷は途端に不機嫌になった。無言でリビングを出て行き、脱衣所の扉を開けている。その音から風呂に入るのだと察した。

 名刺にあった『ナミキホールディングス』は想乃が清掃業で訪れる会社だった。

 まさか仕事中、そこの会社員に目をつけられて……?

 考えるだけで寒気がした。名刺の内容から肩書きは立派だけれど。そう考え、一度置いた名刺をチラ見する。

 もしかしたら本人ではない可能性もあるのではないか。ナミキホールディングスの常務の名刺を手に入れて、郷を騙したのかもしれない。

 なんにせよ、自分の知らないところで不審な男が見張っているのは確かだ。敢えて考えたくはなかったけれど、ストーカー……なのかもしれない。思った途端、全身が寒くなる。

「いったい、なんなのよ。なんでこんな……っ」

 不安がひとりでに口をつき、想乃は目に涙を浮かべた。
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