Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 ***

 ベッド傍に置いたスマホがしつこく鳴り響いていた。しばし着信音が鳴り続け、ようやく回線が繋がれる。

「……お待たせしました、ミライさん。お疲れ様です」

 言いながら彼、並樹(なみき)慧弥(けいや)は首からかけたタオルで濡れた髪をくしゃりと拭った。帰宅して早々にシャワーを浴びていたため、タオルドライがまだ不十分だった。

「大丈夫ですよ。例の件もばっちり。さっき担当の看護師から連絡をもらいましたから」

 ええ、ええ、と返事をしながら笑顔で首肯する。

「それで次はどうすれば……えっ、あさって? あさって決行? ははは、ようやくですか〜」

 並樹はパソコンデスクの引き出しを開けて、メモ用紙の束を取り出した。出しっぱなしのペンで「それで時間は……」と続ける。

「午後六時半と八時過ぎ。……なるほどなるほど……でもそれはちょっと……。いや、彼女に罪悪感が芽生えそうであまり気乗りはしませんけど……ははっ、明るく対応でカバー、ですか。わかりました……で、夜には自宅へ? なかなかハードですねー。はい、了解しました。ではまたあさってに」

 そこで通話を終わらせた並樹はベッドに腰を落ち着け、首にかけたタオルで髪を丁寧に拭いた。「いよいよか」とひとりごち、唇の端を持ち上げた。
< 40 / 154 >

この作品をシェア

pagetop