Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 記事をいったん閉じて、別の記事(もの)を見ようとまたスクロールする。

「え……」

 息とともに呟きがこぼれた。見間違いだろうか。一度通り過ぎた見出しを再度画面に戻し、気になる記事を中央に持ってくる。想乃の目が見開かれ不安定に揺らいだ。

『南沢記念総合病院に不審者出没』

 今現在、母が入院している病院だ。こちらも同様に記事の内容を読んだ。

 一昨日の深夜零時過ぎ、病院内に潜んでいた怪しい男が院内を歩き回っていたという内容だった。

 この怪しい男は巡回中の看護師に見つかりただちに逃走したとあり、入院患者に危害は及ばなかったらしい。文末には、『警察は監視カメラの映像から怪しい男の特定を急いでいる』と書いてあった。

 想乃はスマホを見つめたまま、しばし固まっていた。

 *

 客の来店と同時にベルが鳴る。

「いらっしゃいませ、こんにちはー」

 想乃はカウンターフーズを並べた什器の後ろでひそかにため息を吐き出した。

「いらっしゃいませ」

 カウンターに商品を運んだ客から順に、レジに取り掛かる。常連客のサラリーマンやOL、力仕事をする職人さんのレジを同僚とこなし、売れたカウンターフーズを作るため、想乃は腰を下ろしレンジの下にある冷凍庫を開けた。そこで「すみません」と声をかけられた。
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