Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 てっきり店内の客をさばききったと思っていたので、若干慌てた。

「すみません、お待たせしました」と断り、サラリーマンの男性が運んだパンやおにぎりをスキャンする。「袋もお願いします」と言われ「かしこまりました」と答える。男性から会計を受け取り、レシートを渡す。

「少々お待ちください」

 指先をこすってレジ袋を開け、中に商品を詰めていると不意に強い視線を感じた。想乃はきょとんと目を瞬き、顔を上げる。

 正面に立つサラリーマンとまともに目が合った。想乃の顔をやたら、じぃっと見てくる。

 なに? 私、なにかミスした?

 ドキンと不整脈が打ち、想乃は居心地悪く、眉根を下げた。

「最近あのシュシュしてないんですね?」
「……え」

 あのシュシュ、というのは、使い勝手の良かったクリーム色のシュシュのことだろう。

 視線の原因が仕事に対するミスではないと知り、想乃は大袈裟に安堵した。

「ああ、はい。気づかないうちにどこかで無くしてしまって」

 へへっ、と愛想笑いを浮かべると「そうなんですか」と男性が吐息をもらした。

「じゃあまた新しいのが必要ですね」
「……え?」
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