Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「浅倉さんのストーカー(けん)、病院に現れた不審者、ですよね?」

 ……えっ。

 不審な男とは別に、もうひとり男性の声がして想乃は俯いた顔を上げた。

「一昨日の深夜零時過ぎ。南沢記念総合病院の404号室の前に立っていませんでしたか? 山辺あきらさん」

 言いながらその男性は、想乃に言い寄る不審な男に小さなスプレー缶を向けた。『護身用・催涙ガス』と書かれている。

「っひ、」

 山辺と名指しされた男はそれと認識し、咄嗟に身を引いた。紙袋を持ったまま逃走するかに見えたが、浅倉家の門扉を抜けてすぐに足を止めた。

 想乃の家の前に警察車両が停まっていたからだ。くるくると回るパトランプに息を呑んでいる。

「おい、山辺あきらだな? 署で話を聞かせてもらうぞ、いいな?」

 車の前で待機していた野生的な風貌の男性が、警察手帳を見せて山辺に近づいた。山辺は威圧的な刑事の態度に観念してパトカーに乗り込んでいた。

「どうして、」と声を絞り出していた。

 想乃は対面する男性の姿かたちをはっきりと脳で認識し、やはり呆然と見つめていた。
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