Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
第二章 契約とかけがえのない気持ち


 扉を開けた瞬間、温かな空気とともにいい匂いがふわりと流れてくる。肉が焼ける香ばしい匂いに食欲を刺激されて、想乃はこっそりとお腹に手を当てた。うっかり腹の虫が鳴りそうな気がして緊張した。

 洋食店のホールスタッフが愛想のいい笑みとともに席へと案内してくれる。想乃は前を歩く彼、並樹慧弥に大人しく付いて行く。

 四人がけのソファー席に、並樹と向かい合わせで座った。メニュー表をテーブルの中央に広げ「なにがいい?」と尋ねられる。

 外で食べる食事なんていったいいつぶりだろう。前回は両親の事故が起こるより前のできごとになるので、想乃は過去の情景を思い出し、いくらか胸を痛めた。

 メニューが決まったらしく、並樹は料理の写真を指差して「これの200グラムにしようかな」と言う。特選黒毛和牛のサーロインステーキと書いてあった。

 時刻はすでに八時五十分だ。この時間からステーキ。確かに連れて来られたお店は看板にステーキハウスと掲げられているし、とても美味しそうだけれど。

 いかんせん、値段が……。

「浅倉さんは……どうする? ここのステーキ美味しいよ?」

 でしょうね、と思う。値段を見ればそれなりの価値があるからこの価格帯なのだ。ライスとサラダ付きになっているけれど、たった100グラムで五千円近くもする。
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