Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 並樹は言いたいことだけを言うと、玄関先のポーチで会釈し、くるりと踵を返した。彼の背を見て郷がぽつりと呟く。『やっぱ知り合いだったんじゃん』と。

 郷の声を聞き想乃はハッと我に返った。

『ごめん、郷。ちょっと出てくる』
『え』
『あの人ともう少し話して来るから、郷は先に寝てて?』

 矢継ぎ早にそう言うと、想乃は慌てて並樹を追いかけた。

 少し離れた公園傍に彼の姿を見つけた。自家用車であろう深いコバルトブルーのSUVに鍵を向けていた。今にも乗り込もうとしている。

『待って!』

 思わず声を張り上げた。

『待って、並樹さん!』

 並樹は顔を上げて若干驚いている。並樹の元まで走って、ぜいぜいと息を乱した。彼が申し訳なさそうに笑う。

『ごめんね。急に訪問しておいてなんだけど。浅倉さん疲れてるでしょ。だから今夜はもう休んだほうが』
『眠れませんっ』
『……うん?』
『あなたの言う仕事の件ってなんですか? どうして私の家を知っていたの、私の名前も』

 はぁ、と息を整えて喋る想乃を、並樹がじっと見つめる。笑みを消して真顔になっている。

『そういうの、全部気になってどうせ今夜も眠れないし明日も寝不足です。だから教えてくださいっ』
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