Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 けれどやっぱり好きで。この感情は恋に他ならないと素直になったばかりのあのタイミングでお腹が鳴るなんて。

 私、恥ずかしいところばかり見られてる。

 想乃は羞恥心を誤魔化すように、グラスの水を口に含んだ。

 ここに着くまでの間に並樹から諸々の疑問点を教えてもらった。

 まず想乃の名前を知っていたのは『あのストーカー男が呼んでいたから』だそうだ。

 そして想乃の家を知っていたのは、一昨日郷を自宅まで送り届けてくれたからと言う。送るに至ったいきさつを尋ねると彼は言いにくそうに思案して、それでも真実だと思われることを教えてくれた。

『隠していてもそのうち家裁の調査官に知らされるかもしれないから、言うね。郷くんが同級生の男子三人から酷いいじめを受けていてね。それを止めたんだよ』

 やっぱり、と思ってしまった。今朝ネットニュースを読んだときから、そうかもしれないと不安になっていたのだ。

『悪ガキ三人は警察に突き出したから、家裁へ送致されたそうだよ。郷くんは被害者だから調査官の聞き取りなんかで近々訪問されるかもしれない。そのときは浅倉さんも動じずに話を聞いてあげて?』
『……わかりました』

 想乃はしんみりとした様子で、静かに頷いた。
< 58 / 117 >

この作品をシェア

pagetop