Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜

「すでに何枚か釣書を用意しているのは想像がつくし、むげに断ってめでたい集まりに水を差すのも申し訳ない。
　そこでだ。偽の婚約者を作って周りに知らしめれば、何の問題もないのではと考えた。
　俺と顔見知り程度で直接的な関係がなく、ガツガツしていない奥ゆかしい女性。なおかつ、責任感があって真面目で、愛想のいい美しい女性。そういう人に恋人のふりをしてもらえたら今後見合い話の煩わしさをいっさい感じずに済む」
「……そ、う。ですか」

　想乃は眉根を寄せて、わずかに首を傾げた。どうしてそうなるのだろう。やはり混乱してしまう。お金持ちの考えることは、いちいち理解の範疇(はんちゅう)を超えてくる。

「俺が知り得る範囲でその条件に当てはまるのが浅倉さんだったというわけ。だからきみに婚約者(フィアンセ)のふりをしてもらいたい。勿論、きみに彼氏がいるとなれば諦めざるを得なくなるけど。どうかな？　期間は一年ぐらいを考えているんだけど……」

　依頼するに至った流れについては、一応は理解できた。価値観の問題で言えば、全く共感はできないけれど。育った環境が月とスッポンなのでいたしかたない。

　想乃は沈思黙考のすえ「お話はわかりました」と返事をした。

「今現在、私に彼氏はいません」
「そう、それは良かった」