Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「けれど、なんで……私なんですか?」
「条件に当てはまるから」

 思わず猜疑心をあらわにした目を向けると、並樹が「いやいや」と言って慌てて手を振った。

「本当に本当。外見とか雰囲気で判断されるのは不服かもしれないけど。浅倉さんって……実はけっこう、俺の好み、なんだよね」
「っえ」

 突如として声が裏返った。不意に赤くなった想乃を見て、並樹にもその赤面がいくらか移る。

「ああ、いや。さっきストーカーの件で嫌な思いをしたのは重々わかってる。けど、俺としても。なんとも思わない女性よりは、ね? 好みの女性のほうがさ……信憑性があるかと思って」

 言いながら並樹が遠慮がちに想乃を見ると想乃は耳まで赤くなった。居た堪れずに俯いている。

 想乃の反応を見て並樹が狼狽えた。赤くなった顔を片手で覆い「フォローになってないか」と嘆息をもらしている。手前のコーヒーに口をつけ、熱い吐息を吐き出した。想乃もカフェインレスのコーヒーをひと口飲みこんだ。

「ごめん。正直引いたよね?」
「……い、いえ。驚きはしましたけど。別に、引いたりは」
「本当?」
「……はい」

 ハァ、と大仰なため息が聞こえた。良かったと言って並樹が安堵している。

「うん。でもやっぱり浅倉さんで正解だなって思う。そういう、いちいちピュアな反応をする女性のほうがいいんだよね」
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