Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜

「どうかな？　俺としては浅倉さん以外の適任者がいないから、できれば引き受けてもらえると嬉しいんだけど」

　優しい笑みを浮かべる並樹を見て、想乃は言葉に窮した。

　恋をする相手としては、とてもじゃないが釣り合わない。そんなことは最初からわかっていた。けれども、ここで引き受けても断っても想乃の片想いという状況は変わらない。今さら諦めようと思って諦められるほど、軽い気持ちで認めたわけではないのだ。

「わかりました。お引き受けします」
「本当？　ありがとう！」

　満面の笑みをたたえた並樹に「よろしくお願いします」と続け頭を下げた。

「依頼は一年、なんですよね？」
「うん。契約に関する書類は追って準備をするつもりだし。ふりでどこまでのスキンシップを求めるかもちゃんと定義する。浅倉さんが嫌がることはいっさいしない」

　スキンシップ。想乃が聞きたいことはそういった内容に関することではないけれど、具体的に想像してしまい、また頬が熱くなった。

「あの。一年後はどうするつもりなんですか？」
「うーん。そのときはそのときで、また考えるよ」

　カップにある残り半分のコーヒーを飲み干した。そして彼に促されるまま、スマホの連絡先を交換し、席を立った。