Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 言うまでもなく、食事の会計は並樹が全額支払ってくれた。想乃が財布の中のクレジットカードを出す間もなく、いつものようにスマホを出してバーコード決済を完了させていた。

「あの。ご馳走様でした。今日のぶんのお食事代はまた後日にお支払いしますので」

 駐車場まで移動しながら並樹を見上げて言うと、彼が「なんで?」と不思議そうに尋ねてくる。

「私が食べた分の食事代、なので」

 なにかおかしなことを言っただろうか。首を傾げてそう言うと並樹はふふっ、と目を細くし「だったら要らないよ」と言う。

「誘ったのは俺だし。無茶な依頼を聞いてもらったお礼と言うか。浅倉さんには時間を割いてもらったから」
「お、お礼をするなら。私のほうです。危ないところを助けてもらいましたし、スーツを汚したお詫びも全然……」

 思い出すと申し訳なくなり、言葉は尻すぼみになった。今になって気づいたけれど、彼のスーツが別のものに変わっていた。早々に着替えを済ませたらしい。

 並樹は「ふふふ」となおも陽気に笑う。

「それじゃあ、今後も浅倉さんには時間で払ってもらおうかな」

 並樹の車へ到着し、来たときと同様に助手席のドアを開けてもらう。自宅まで送ると言われて何から何まで申し訳なくなる。

 帰りの車内で次に会う予定を尋ねられた。「浅倉さんの都合にあわせるよ」と言われ、想乃は俯きがちにはにかんだ。
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