Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜

「じゃあなんて説明すれば……？」
「普通に彼氏、でいいんじゃない？」
「……彼氏」

　なんだろう。妙にこそばゆい響きだ。想乃は顔をあからめながら頷き、車から降りた。

「今日は付き合ってくれてありがとう」
「い、いえ。こちらこそ、ご馳走様でした」
「あと、これ」

　言いながら並樹から黒い紙袋を受け取った。中には綺麗な不織布で包まれたお弁当らしきものが入っている。

「郷くんへのお土産。冷蔵庫へ入れておけば明日でも食べられるから」
「……あ。ありがとうございますっ」

　そこまでしてもらうのが忍びなく、想乃が大きく頭を下げた。「浅倉さん、大袈裟」とまた笑われる。

「じゃあまた明日」

　そう言って去っていく彼に小さく手を挙げる。遠ざかるテールランプを見送ってから、玄関扉に鍵を差した。

「ただいま」

　小声で囁き靴を脱ぐ。すっかり電気の消えたリビングに入り、冷蔵庫に郷への土産を仕舞った。二階に続く階段に足をかけて自室へ向かう。

　パタンと部屋の扉を閉めて、へなへなとその場に座り込んだ。ハァ、と物憂い吐息がこぼれる。今日一日がまるで夢のようだった。

「並樹、慧弥さん……」

　交換したスマホのアドレスを見つめて、ひっそりと名前を呼んでみる。慧弥さん、慧弥さん、と心の中で想ってみる。