Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 そこで並樹が言葉を切った。眉を寄せてどう伝えたらいいものかと思案している。

「辞めたんです、大学は」
「……そう」
「並樹さん、私について調べたんですよね?」
「え……?」
「郷から聞きました。郷が私の弟だって、見てわかったって。今回この仕事を依頼するために私についての諸々を……家庭の事情も含めて調べていますよね?」

 想乃の強い視線を受けて並樹が真顔で固まった。少しの間をおいてから無言で顎を引く。

「きみの言うとおり。調べた」

 素直に認める彼を見て「そうですか」と息をつく。

「じゃあ父と母のことも知ってますよね」
「……知ってる。経済的な理由で大学を辞めてきみが郷くんとの暮らしを続けるために……母親の医療費を稼ぐために、朝から晩まで働いていることは。それはちゃんと理解している」
「だったら、わかるでしょう? この一年が終われば私は無職になります。大学を卒業していないから学歴にも大したことを書けないし。就職だってそう簡単には決まらない。だからアルバイトで」
「わかってる。けれどその点に関しては心配しないでほしい。一年後のために俺が就職の世話をするよ。浅倉さんにぴったりの仕事を見つけられるよう、全面的にサポートするから」
「……それってコネですか?」
「え」
< 85 / 114 >

この作品をシェア

pagetop