Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
3
一瞬なにを言われたのかわからず、想乃は丸い瞳をぱちぱちと瞬いた。
「偶然なんだけど。三年ぐらい前かな……きみは高校の制服を着ていて。聴衆に囲まれながら、楽しそうにストリートピアノを弾いていた」
……あ。
想乃の頭の中にかつての情景が広がった。鍵盤を指でたたきながら音楽の波に没入するあのころの自分を思い出す。
「それだけじゃない。いとこに誘われて、あの学生コンクールも聴きに行ったよ。きみの弾くピアノの音は感情が豊かで不思議と惹きつけられた。テクニックとかそういうものも大事だろうけど。それよりも自由さと大胆さに長けていて、俺はいいなと思った。誰が弾いているんだろうってパンフレットを見て。浅倉想乃、あのときにきみの名前を知ったんだ」
並樹の、真剣な茶色い瞳を見つめて想乃は唇をきゅっと結んだ。自分の一番大切にしている部分に触れられて、心が大きく揺れる。「知ってたの」と。それしか言えなかった。
「うん。ごめんね。今回依頼するにあたってきみを調べたときに気がついた。あのときの高校生かって。だから余計に依頼したくなった。浅倉さんじゃなきゃだめだって」
「どうして、ですか?」
「うん」とひとつ頷き、並樹は一度口を結んだ。目線が下がる。長いまつ毛の下で茶色い瞳が影を帯びた。