Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 想乃の丸い瞳がじわりと滲んだ。もう今さらだと思っていたのに諦めなくていい。並樹の甘美な響きが、頑なに線引きした心を大きくぐらつかせる。一度閉じて萎んでしまった花が明るい陽の光を見つけたように、少しずつ蕾を和らげていく。

「浅倉さんが一年後どんな仕事に就きたいのか早めにわかるのなら、教えてほしい。俺がきみをサポートするよ。もし試験を受けるなら練習が必要だろうし、コネなんかで通るようなものじゃない。ピアノもこっちで買い直すし、検定を受けたり資格を取得したいのならそれにかかる費用なんかも出せる。この一年をきみの自己成長のために使ってほしい」

 想乃は彼を見つめたまま弱々しく眉を下げた。「わからないです」と続ける。

「どうして私に。そこまでしてくれるんですか?」

 お金だってたくさんかかるのに。彼になんのメリットがあるのだろう……。

 並樹はきょとんとし、首を傾げた。

「たぶん……好きだから?」
「っえ、」
「きみのピアノが好きだから。諦めずに弾いてほしい」

 そこで想乃は大きく息を吐き出した。自然と胸に手をあてる。

 ああ、なんだ。ピアノのことか。

 片想いの彼に好きなんて言われたら、変に期待してしまうではないか。
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