Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
並樹に手を引かれながら店員が歩く方向へ足を進める。入るときに見た階段を上がり二階席へ到着する。想乃はあっと息をのんだ。四人がけのテーブルが数席と、その奥に存在感を放つグランドピアノが置いてある。
ピアノへ近づき演奏するための四角い椅子を、彼が手のひらで指し示した。さぁどうぞ、と。想乃はスカートを少しだけ持ち上げるようにして座った。
目の前に白と黒の鍵盤がある。普段からきちんと手入れされていて、たびたびここで演奏されているのだと思った。
つるりと艶を帯びた鍵盤は子供のころから見慣れた愛すべき楽器だ。右手を出し、低音から中音、高音までをなぞる。ポロン、ポロロン……と鳴る音の響きに目を伏せて、耳を澄ませた。88鍵のピアノだ。
それまで店内を満たしていたBGMが鳴り止んだ。想乃は指先を見つめてから、すぐそばに立つ並樹を見上げた。
「少しアップしても……?」
「もちろん」
手の面裏を返し両手を組んで手首を優しく回した。握りしめたり開いたりを繰り返して、まず指のストレッチをする。
鍵盤に両手を載せて適当に思いつくままに指を滑らせた。思っていた以上に手がしっかりと動きを覚えていて、想乃自身が驚いていた。音色が止んだ。店内が若干ざわついている。
ピアノへ近づき演奏するための四角い椅子を、彼が手のひらで指し示した。さぁどうぞ、と。想乃はスカートを少しだけ持ち上げるようにして座った。
目の前に白と黒の鍵盤がある。普段からきちんと手入れされていて、たびたびここで演奏されているのだと思った。
つるりと艶を帯びた鍵盤は子供のころから見慣れた愛すべき楽器だ。右手を出し、低音から中音、高音までをなぞる。ポロン、ポロロン……と鳴る音の響きに目を伏せて、耳を澄ませた。88鍵のピアノだ。
それまで店内を満たしていたBGMが鳴り止んだ。想乃は指先を見つめてから、すぐそばに立つ並樹を見上げた。
「少しアップしても……?」
「もちろん」
手の面裏を返し両手を組んで手首を優しく回した。握りしめたり開いたりを繰り返して、まず指のストレッチをする。
鍵盤に両手を載せて適当に思いつくままに指を滑らせた。思っていた以上に手がしっかりと動きを覚えていて、想乃自身が驚いていた。音色が止んだ。店内が若干ざわついている。