Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「そういえば並樹さん。泣いてましたね」

 彼がきょとんとした顔で「うん」と頷く。

「何となく……浅倉さんが自分の殻を破ってくれたのかなって……親心みたいな気持ちになっちゃって」

 そのまま運転席へ乗り込む彼を見て、想乃も助手席のドアを開けた。「親ですか?」。笑いながらシートベルトを締める。はは、と並樹もつられて笑う。

「うそうそ、恋人」

 想乃の手元に先ほど見ていた電子パッドが差し出された。

「契約書の内容に納得してもらえるなら、最後の欄に署名をしてくれるかな?」

 想乃は一度読んだ文章を改めて読み直し、画面を一番下までスクロールした。下線の引かれた部分をタップするとそこがズームアップされる。指先を使って慎重に名前を書いた。デジタルなので少しいびつな形になった。

「今だから言いますね」
「……うん?」
「私、心の中でずっと並樹さんのことをスイーツプリンスと呼んでいました」
「え。す、スイーツ……?」
「いつも甘いデザートを買って行く貴公子だからスイーツプリンス。ぴったりでしょう?」

 そう言って電子パッドを返すと、並樹がふっ、と吹き出した。「それはいい」と続け、あははとまた笑っている。

「それじゃあ契約成立ということで」
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