Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜


 ***

 白い陶器からたちのぼる絹のような蒸気を見つめていた。黒い革張りのソファーに腰を落ち着け、並樹慧弥はコーヒーを口にする。日曜日の午後。店内を満たすのはジャズ調のクラシック曲で、この静かな雰囲気が妙に落ち着いた。自宅から程なく近い、馴染みのある喫茶店に来ていた。

 カランコロンと澄んだ音が鳴った。カウベルの音に反応して、慧弥は目を上げる。野生的な雰囲気を存分に放つ男と目が合い、彼がパッと手を挙げた。

「悪い、少し遅れたな」
「いや」

 男が慧弥と向かい合わせに座り、店員にコーヒーを注文する。「それで?」と慧弥を見てにやついた。

「プリンセスは救えたのかよ?」

 彼の視線を受けて慧弥はまんざらでもなさそうに笑みを浮かべた。

「雑談はいいから。その後の経過報告」
「はいはい。相変わらず合理主義なことで」

 えーと、と続け、男はジャケットの内ポケットから黒い薄型の手帳を取り出した。

「まずは浅倉郷くんの件から。いじめっ子三人は家裁の調査官との面談が進んでる。三人とも別の中学に移るから今後郷くんとも関わらない。熱心な調査官が担当してるから来週中にでも浅倉家に連絡がいくだろうよ」
「……なるほど」
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