Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 そこで「お待たせしました」と店員より声がかかる。手帳を見る男の手前に慧弥と同じコーヒーカップが置かれた。一礼をして店員が去るのを確認してから、男が再度手帳に目を落とした。

「次に浅倉想乃さんにストーキングしていた山辺の件だけどな。住居侵入罪で逮捕が決まった。その後検察に起訴されるだろう。
 山辺が入ろうとした病室は想乃さんの母親が入院している部屋で、山辺は医療装置をいじって母親を死に至らしめようとしたらしい。金銭的な面で想乃さんを助けたかったからと山辺は主張している。
 重度のストーカーには違いないから接近禁止命令も出される。今後想乃さんに危険が及ぶことはまぁ無いだろう」
「上出来。さすがは水沢刑事」
「茶化すなよ」
「いやいや、拓司は相変わらずいい仕事をしてくれる」

 言いながら慧弥は手前のカップに指をかけ、コーヒーを口に含んだ。

 慧弥の向かいに座るのは幼い頃から付き合いのある幼馴染で、名を水沢(みずさわ)拓司(たくじ)という。日々警察手帳を携帯するいっぱしの刑事だ。

「ったく。俺だって色々と厄介な案件抱えてるんだからな」
「悪い悪い」

 そう言いつつも全く悪びれのない笑みで慧弥が首を傾げた。

「で? 慧弥のほうはどうなんだ? 想乃さんと上手くやるとかどうとか言ってたけど」
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