Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「ああ、順調に進んでる。昨日会って無事に交際をスタートできたし、なんの問題もない」
「おまえのほうがストーカーなんじゃねぇの?」
「ばか言え。俺は彼女を怖がらせたりはしない」

 慧弥のしかめっ面を見て水沢はため息で応える。「どうだか」と呆れて続け、手前のブラックコーヒーに口を付ける。

「しかし。交際って言っても“ふり”なんだろ? 契約期間に一年も費やす必要があるのか?」
「はぁ? 本気で言ってる? 本物っぽく見えなければすぐにバレるだろ」
「彼女がその……本気でおまえを好きになったら?」
「……そのときはそのとき」
「“そのつもりはなかった”、そう言ってポイっと捨てりゃいいって? 相変わらずの辛辣ぶり。非道だよなぁ〜」
「なんでだよ、だから給与が発生するんじゃないか」

 ハァ、と水沢がまたため息で応酬する。これだから御曹司は、とでも言いたげに呆れて肩をすくめた。

「なにも見ず知らずの女性に頼まなくても。美海(みみ)じゃだめだったのかよ。あいつは昔から慧弥のことが好きだろ?」
「ばか、それこそ面倒じゃないか。美海が叔父さんと結託したら本当に籍を入れられる」
「でも……ふりをしているうちに本当に好きになるかもしれないだろ」
「ないない。美海は絶対にないよ」
「なんでだよ」
「はぁ。わかってないなー、水沢刑事は」
「は?」
「美海は、おまえだろ?」
「……え」
「おまえが嫁にすればいい。ずーっと好きなんだから」
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