純愛コンプレックス
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◯朝。登校中。
話をするために、午後から授業だという洋介を無理矢理起こして一緒に家を出た。
【稀莉ちゃんが、もしかしたら純くんに一目惚れかもしれないの件について】
洋介「いや、ねぇだろ」こんなくだらない話で俺は起こされたのか……という顔。
真白「だよね……」
洋介「あいつ、リアルで恋とかすんの? ゲーム仲間とは毎晩のようにいちゃこらしてっけど(ネットで)」
真白「ゲームの向こうの相手はリアルでしょ」
洋介「どーせ、シスコンだろ。真白取られて嫉妬してるだけだって」
真白「うーん。そうかなぁ」
洋介「そうだって」どうでも良いので投げやりな返事。
洋介「お前、今日の夜は叔父さんと出掛けるんだよな」
真白「うん。米沢牛の鉄板焼き連れてって貰うんだー」
※A5ランクの米沢牛 ステーキの絵
洋介「うちは明日祝うから、飯こっち来いってさ」
真白「了解。ありがと!」
洋介「米沢牛は出ねぇと思うけどな」
「行ってきます」と手を振って別れる。
◯家 帰宅後
・鏡の前でティントを塗っている。
真白「よし!」
(フルメイク、久しぶり。こっちだと学校の人以外とのお出掛けじゃないとガチメイク出来ないしな)
忙しいパパとの久しぶりのお出掛けに浮かれている。
※オフホワイトの半袖リブニットにブルーのチェック柄のフレアスカート。いつもより大人っぽい雰囲気。
・家の門を出た所でスマホが鳴る。
真白「あっ、パパ? 今、家出たとこだよ……えっ、あーうん。うん、了解」表情が曇る。
真白「大丈夫、丁度家の前。ナイスタイミングだよ。ふふっ。いいよ、いいよ。気にしないで。うん。お仕事頑張ってね」
スマホを持ったまま門の前で立ち尽くしていると、道路の向こう側から洋介が帰ってくるのが見える。
洋介「おう。今から行くとこ?」
真白「洋ちゃん……」
洋介「待ち合わせ、S市の方だろ。車で送ってやろうか」
洋介「真白?」
真白「大丈夫。まだ時間あるから、ちょっとウロウロしてから行く」
洋介「そ?」真白の様子が少し気に掛かっている。
真白「じゃあ、行ってくるね」
◯住宅街
当てもなくとぼとぼと歩く。
辺りはもう薄暗い。
真白【ウロウロするって言ってもーー行くとこないなぁ】
真白【パパのドタキャンなんて、珍しくないけど。でも今日は、今日くらいーー】
スマホを取り出して、メッセージアプリの画面を適当にタップする。
真白【この格好じゃあ、紗理ちゃんたちにも会えないし】
真白【どっちにしても、この時間じゃ誘える人、いないけど】
スマホの画面には夜十九時の表示。
真白【門限……叔母さんに、連絡しなきゃ】
【……もう、いいか。東京にいてもこっちにいても、ひとりだし】
真白【あ、なんか……これ、まずい】
寂しさがどっと押し寄せてきて、自分を抱きしめるように両腕をきつくつかむ。
【こういう時、いつもどうしてたっけ】
・東京で夜遅くまで遊んでいた場面。
【そっか、東京には夜、連絡すれば会ってくれる友達がいたけど】
【ここにはーー誰もいない】
純「清流?」
ゆっくりと顔をあげると、少し離れたところに純と小学生くらいの女の子の姿が見えた。
純は目をまんまるにして、こっちに歩いてくる。
純「やっぱり。綺麗な格好してるから、一瞬、分からなくて声かけるの迷った」
「あっ、いつもの感じもめっちゃ可愛いけどっ」
純「どっか出掛けるとこ?」
真白:涙を堪えて純を見上げる。
純「清流、大丈夫? 具合、悪いとか……」
そっと真白の腕に触れて、屈んで真白の顔を覗き込む。
純に会えて、安心感と嬉しさに心が満たされぽろっと涙が溢れた。
何も言わず、真白を抱きしめようと腕を伸ばしたところでーー。
妹1「にぃー! 誰?」
妹の存在を思い出して、ばっと距離を取るふたり。
純「妹。明日図工で使う牛乳パックがないとか言い出すから、買いに行ったとこ」
コンビニのビニール袋を掲げる。
妹1「純にぃ、彼女? 彼女でしょぉー!?」
純「まぁ……」
家族の前では照れ臭いので歯切れの悪い返事。
妹1「きゃああぁ、やっぱり!」
妹1「お姉ちゃん、なんて名前? にぃと同じ学校? 同じクラス?」
純「こら、まずは挨拶」
妹1「佐伯優佳です!」
真白「清流真白です。こんばんは」
妹1「ねぇねぇご飯食べた? うちに来なよ! 今日はお好み焼きだから大丈夫だよ」
純「何が大丈夫か。いきなり誘ったら迷惑だよ」
妹1「だって、ママにも見せなきゃ!! 彼女!」
純のデニムの後ろポケットからスマホを奪い取る。
純「あっ、こら!」
妹1「ママ? 純にぃの彼女、今日うちで夕飯食べてもいい?」
妹1「いいって!!」
純が深いため息を吐き、真白は呆然としている。
純「良かったら、来ない?」
真白「でも、いきなり行ったら迷惑じゃ……」
純「全然、平気。妹、もうすっかりその気だし。こっちこそ、迷惑じゃなければ、ぜひ」
◯純の家
玄関のドアを開けると、さっき連絡を入れていたので、母親と姉ともうひとりの妹が勢揃いで待ち構えていた。
母「いらっしゃ〜い。ふふふ、まさか純が彼女連れて来るなんて。緊張しちゃうわ」
姉「やっだ、こいつ超面食い〜」大学一年生。
妹2「純にぃのかのじょ?」小学一年生。
姉「そうだよー。真白ちゃんだって。可愛いねぇ」
妹2「かのじょって好きな子でしょ? いづみちゃんじゃないの?」
姉「こぉらっ」と妹の口を押さえつける。
真白(いづみちゃん……誰だろ?)
◯賑やかな食卓の様子。
純が手際よくお好み焼きを焼いて、真白のお皿に乗せてくれる。
賑やかなきょうだいのやり取りに混ざって、真白も釣られて笑顔になっていた。
・懐いてくれた妹達と洗い物を手伝っていると、インターフォンが鳴って、出迎えた姉と一緒に同じ歳くらいの女の子がリビングに入ってくる。
母「あら、いづみちゃん、いらっしゃい」
いづみ「こんばんは」
いづみ:姉と同じ歳。
大人しそうな印象。地味な服装だけど清楚な雰囲気でダサさは感じない。
いづみ「純の彼女が来てるよって亜美に教えて貰ったから、見に来ちゃった」
純「わざわざ来ないでいいよ」呆れた顔。
いづみ「純は私の弟みたいなものだもん。どんな子と付き合ってるのか気になるわよ」
ちらっと真白を見る。あまり好意的ではない様子。
いづみ「可愛い彼女だね。男の子にモテるでしょ」
真白に向ける視線はどこか冷たい。
純「姉の同級生。すぐ向かいに住んでるから、よく遊びにくるんだ」
真白「そうなんだ……」
(幼馴染……)
◯玄関
来た時と同じように、みんなで玄関に並んで見送る。
真白「ご馳走でした。いきなりお邪魔してしまってすみません」
母「またいつでも来てね」
純「送ってくる」
姉「やさしいじゃーん」
妹2「やさしいー」姉の真似をしている。
純「やめて」
◯マンションの下
真白「ここで大丈夫だよ? 道、真っ直ぐでしょ」
純「ん。迷わないだろうけど……心配だから」
真白「ありがと」
純「……てか俺が、まだ話したくて。今日、全然ふたりになれなかったしーー」
真白【うーーわーー】胸がむずむずして、にやけそうになる顔を両手で押さえる。
純「強引に来てもらって、ごめんね」
真白「全然。すごい楽しかったしーー誕生日にひとりご飯はさすがに悲しかったから、有り難かったよ」
純「たんじょうび……って、ええっ!? 今日?!」
真白「うん……実は」
純が立ち止まって両手で顔を覆う。
純「……ごめん。マジで、ごめん。誕生日って、知らなかった……」
真白「気にしないで! 私も言いそびれちゃってた」
純「うわぁ、マジでありえない……彼女の誕生日、知らないって……最悪、俺」
純「言い訳くさいけど。付き合えたことに浮かれすぎてて、誕生日、聞きそびれてました」ごめんなさいと頭を下げる。
真白「ほんと、気にしないで。私も同じだから」
純「お祝いは、ちゃんと改めてさせてください」
真白「いいのに」
純「俺がよくない」
真白:ふと思いついて、「あっ」と声に出す。
真白「なら、……もう今日は散々迷惑かけちゃってるけど、もうひとつ、プレゼントに我儘、言ってもいい?」
純「なんでも言って」
真白「……私も、純くんのこと、名前で呼びたい、です」
・いづみが純と呼ぶのを聞いて密かにモヤモヤしていた。
【あの人が、純って呼ぶのすごく嫌だった】
【ああ、そっか、これ】
【独占欲だ】
純:目を見開いたあと、嬉しそうにくしゃりっと目を細めて笑う。
純「うん。呼んで」
純「俺も、名前で呼びたい」
真白「うん」
純「誕生日おめでとうーーーーーー真白」
「照れるね」と笑い合う。
◯家の前
離れがたくて純も一緒にバスに乗って、真白の家の前まできた。
真白「送ってくれてありがと。気を付けて帰ってね」
純「うん。じゃあ、おやすみ」
バイバイと手を振って、純の後ろ姿を門から見送る。
純「あのさっ!」
少し離れた所で純が振り返る。
純「なんかあったらーーなくても! ひとりでいたくない時とか、ほんと、いつでも来て。うちはあんな感じでいつもわちゃわちゃしてるから誰も気にしないし。ちび達も喜ぶし」
純「……俺が、いちばん喜ぶんだけど」
真白:泣きそうになって「うん」と声にならないまま頷く。
純「あっ!! 連れ込むとか変な意味じゃないからね! 知っての通り! ちび達もいるし!! 安心してっ……」
真白【そこはむしろ連れ込んで】
真白「……ほんとにーーまた、行ってもいい?」
純「いつでも!」嬉しそうに笑って手を振って帰って行く。
家の中に入って、玄関にしゃがみ込む。
【うーーーー好きだぁ……】
【一緒にいて、好きが増えていく恋って、初めてだ】
【でも、純くんが好きになってくれたのは、作りものの私で、ほんとうの私は純粋でも初めての彼氏でもなくて】
【清純ぶっておいて、実はぜんぜん純情純情じゃないって知られたらーー】
【ほんとうの私を知っても……好きでいてくれるかな】
【今までは別れようって言われると、まぁ、いっかって気持ちがすっと潮が引くようになくなって、引き留めたこともなくて、また次の人と新しい関係を初めてーー】
【この恋は、終わらせたくないよーー】
【ならーー】
【ちゃんと話さないとだ】
話をするために、午後から授業だという洋介を無理矢理起こして一緒に家を出た。
【稀莉ちゃんが、もしかしたら純くんに一目惚れかもしれないの件について】
洋介「いや、ねぇだろ」こんなくだらない話で俺は起こされたのか……という顔。
真白「だよね……」
洋介「あいつ、リアルで恋とかすんの? ゲーム仲間とは毎晩のようにいちゃこらしてっけど(ネットで)」
真白「ゲームの向こうの相手はリアルでしょ」
洋介「どーせ、シスコンだろ。真白取られて嫉妬してるだけだって」
真白「うーん。そうかなぁ」
洋介「そうだって」どうでも良いので投げやりな返事。
洋介「お前、今日の夜は叔父さんと出掛けるんだよな」
真白「うん。米沢牛の鉄板焼き連れてって貰うんだー」
※A5ランクの米沢牛 ステーキの絵
洋介「うちは明日祝うから、飯こっち来いってさ」
真白「了解。ありがと!」
洋介「米沢牛は出ねぇと思うけどな」
「行ってきます」と手を振って別れる。
◯家 帰宅後
・鏡の前でティントを塗っている。
真白「よし!」
(フルメイク、久しぶり。こっちだと学校の人以外とのお出掛けじゃないとガチメイク出来ないしな)
忙しいパパとの久しぶりのお出掛けに浮かれている。
※オフホワイトの半袖リブニットにブルーのチェック柄のフレアスカート。いつもより大人っぽい雰囲気。
・家の門を出た所でスマホが鳴る。
真白「あっ、パパ? 今、家出たとこだよ……えっ、あーうん。うん、了解」表情が曇る。
真白「大丈夫、丁度家の前。ナイスタイミングだよ。ふふっ。いいよ、いいよ。気にしないで。うん。お仕事頑張ってね」
スマホを持ったまま門の前で立ち尽くしていると、道路の向こう側から洋介が帰ってくるのが見える。
洋介「おう。今から行くとこ?」
真白「洋ちゃん……」
洋介「待ち合わせ、S市の方だろ。車で送ってやろうか」
洋介「真白?」
真白「大丈夫。まだ時間あるから、ちょっとウロウロしてから行く」
洋介「そ?」真白の様子が少し気に掛かっている。
真白「じゃあ、行ってくるね」
◯住宅街
当てもなくとぼとぼと歩く。
辺りはもう薄暗い。
真白【ウロウロするって言ってもーー行くとこないなぁ】
真白【パパのドタキャンなんて、珍しくないけど。でも今日は、今日くらいーー】
スマホを取り出して、メッセージアプリの画面を適当にタップする。
真白【この格好じゃあ、紗理ちゃんたちにも会えないし】
真白【どっちにしても、この時間じゃ誘える人、いないけど】
スマホの画面には夜十九時の表示。
真白【門限……叔母さんに、連絡しなきゃ】
【……もう、いいか。東京にいてもこっちにいても、ひとりだし】
真白【あ、なんか……これ、まずい】
寂しさがどっと押し寄せてきて、自分を抱きしめるように両腕をきつくつかむ。
【こういう時、いつもどうしてたっけ】
・東京で夜遅くまで遊んでいた場面。
【そっか、東京には夜、連絡すれば会ってくれる友達がいたけど】
【ここにはーー誰もいない】
純「清流?」
ゆっくりと顔をあげると、少し離れたところに純と小学生くらいの女の子の姿が見えた。
純は目をまんまるにして、こっちに歩いてくる。
純「やっぱり。綺麗な格好してるから、一瞬、分からなくて声かけるの迷った」
「あっ、いつもの感じもめっちゃ可愛いけどっ」
純「どっか出掛けるとこ?」
真白:涙を堪えて純を見上げる。
純「清流、大丈夫? 具合、悪いとか……」
そっと真白の腕に触れて、屈んで真白の顔を覗き込む。
純に会えて、安心感と嬉しさに心が満たされぽろっと涙が溢れた。
何も言わず、真白を抱きしめようと腕を伸ばしたところでーー。
妹1「にぃー! 誰?」
妹の存在を思い出して、ばっと距離を取るふたり。
純「妹。明日図工で使う牛乳パックがないとか言い出すから、買いに行ったとこ」
コンビニのビニール袋を掲げる。
妹1「純にぃ、彼女? 彼女でしょぉー!?」
純「まぁ……」
家族の前では照れ臭いので歯切れの悪い返事。
妹1「きゃああぁ、やっぱり!」
妹1「お姉ちゃん、なんて名前? にぃと同じ学校? 同じクラス?」
純「こら、まずは挨拶」
妹1「佐伯優佳です!」
真白「清流真白です。こんばんは」
妹1「ねぇねぇご飯食べた? うちに来なよ! 今日はお好み焼きだから大丈夫だよ」
純「何が大丈夫か。いきなり誘ったら迷惑だよ」
妹1「だって、ママにも見せなきゃ!! 彼女!」
純のデニムの後ろポケットからスマホを奪い取る。
純「あっ、こら!」
妹1「ママ? 純にぃの彼女、今日うちで夕飯食べてもいい?」
妹1「いいって!!」
純が深いため息を吐き、真白は呆然としている。
純「良かったら、来ない?」
真白「でも、いきなり行ったら迷惑じゃ……」
純「全然、平気。妹、もうすっかりその気だし。こっちこそ、迷惑じゃなければ、ぜひ」
◯純の家
玄関のドアを開けると、さっき連絡を入れていたので、母親と姉ともうひとりの妹が勢揃いで待ち構えていた。
母「いらっしゃ〜い。ふふふ、まさか純が彼女連れて来るなんて。緊張しちゃうわ」
姉「やっだ、こいつ超面食い〜」大学一年生。
妹2「純にぃのかのじょ?」小学一年生。
姉「そうだよー。真白ちゃんだって。可愛いねぇ」
妹2「かのじょって好きな子でしょ? いづみちゃんじゃないの?」
姉「こぉらっ」と妹の口を押さえつける。
真白(いづみちゃん……誰だろ?)
◯賑やかな食卓の様子。
純が手際よくお好み焼きを焼いて、真白のお皿に乗せてくれる。
賑やかなきょうだいのやり取りに混ざって、真白も釣られて笑顔になっていた。
・懐いてくれた妹達と洗い物を手伝っていると、インターフォンが鳴って、出迎えた姉と一緒に同じ歳くらいの女の子がリビングに入ってくる。
母「あら、いづみちゃん、いらっしゃい」
いづみ「こんばんは」
いづみ:姉と同じ歳。
大人しそうな印象。地味な服装だけど清楚な雰囲気でダサさは感じない。
いづみ「純の彼女が来てるよって亜美に教えて貰ったから、見に来ちゃった」
純「わざわざ来ないでいいよ」呆れた顔。
いづみ「純は私の弟みたいなものだもん。どんな子と付き合ってるのか気になるわよ」
ちらっと真白を見る。あまり好意的ではない様子。
いづみ「可愛い彼女だね。男の子にモテるでしょ」
真白に向ける視線はどこか冷たい。
純「姉の同級生。すぐ向かいに住んでるから、よく遊びにくるんだ」
真白「そうなんだ……」
(幼馴染……)
◯玄関
来た時と同じように、みんなで玄関に並んで見送る。
真白「ご馳走でした。いきなりお邪魔してしまってすみません」
母「またいつでも来てね」
純「送ってくる」
姉「やさしいじゃーん」
妹2「やさしいー」姉の真似をしている。
純「やめて」
◯マンションの下
真白「ここで大丈夫だよ? 道、真っ直ぐでしょ」
純「ん。迷わないだろうけど……心配だから」
真白「ありがと」
純「……てか俺が、まだ話したくて。今日、全然ふたりになれなかったしーー」
真白【うーーわーー】胸がむずむずして、にやけそうになる顔を両手で押さえる。
純「強引に来てもらって、ごめんね」
真白「全然。すごい楽しかったしーー誕生日にひとりご飯はさすがに悲しかったから、有り難かったよ」
純「たんじょうび……って、ええっ!? 今日?!」
真白「うん……実は」
純が立ち止まって両手で顔を覆う。
純「……ごめん。マジで、ごめん。誕生日って、知らなかった……」
真白「気にしないで! 私も言いそびれちゃってた」
純「うわぁ、マジでありえない……彼女の誕生日、知らないって……最悪、俺」
純「言い訳くさいけど。付き合えたことに浮かれすぎてて、誕生日、聞きそびれてました」ごめんなさいと頭を下げる。
真白「ほんと、気にしないで。私も同じだから」
純「お祝いは、ちゃんと改めてさせてください」
真白「いいのに」
純「俺がよくない」
真白:ふと思いついて、「あっ」と声に出す。
真白「なら、……もう今日は散々迷惑かけちゃってるけど、もうひとつ、プレゼントに我儘、言ってもいい?」
純「なんでも言って」
真白「……私も、純くんのこと、名前で呼びたい、です」
・いづみが純と呼ぶのを聞いて密かにモヤモヤしていた。
【あの人が、純って呼ぶのすごく嫌だった】
【ああ、そっか、これ】
【独占欲だ】
純:目を見開いたあと、嬉しそうにくしゃりっと目を細めて笑う。
純「うん。呼んで」
純「俺も、名前で呼びたい」
真白「うん」
純「誕生日おめでとうーーーーーー真白」
「照れるね」と笑い合う。
◯家の前
離れがたくて純も一緒にバスに乗って、真白の家の前まできた。
真白「送ってくれてありがと。気を付けて帰ってね」
純「うん。じゃあ、おやすみ」
バイバイと手を振って、純の後ろ姿を門から見送る。
純「あのさっ!」
少し離れた所で純が振り返る。
純「なんかあったらーーなくても! ひとりでいたくない時とか、ほんと、いつでも来て。うちはあんな感じでいつもわちゃわちゃしてるから誰も気にしないし。ちび達も喜ぶし」
純「……俺が、いちばん喜ぶんだけど」
真白:泣きそうになって「うん」と声にならないまま頷く。
純「あっ!! 連れ込むとか変な意味じゃないからね! 知っての通り! ちび達もいるし!! 安心してっ……」
真白【そこはむしろ連れ込んで】
真白「……ほんとにーーまた、行ってもいい?」
純「いつでも!」嬉しそうに笑って手を振って帰って行く。
家の中に入って、玄関にしゃがみ込む。
【うーーーー好きだぁ……】
【一緒にいて、好きが増えていく恋って、初めてだ】
【でも、純くんが好きになってくれたのは、作りものの私で、ほんとうの私は純粋でも初めての彼氏でもなくて】
【清純ぶっておいて、実はぜんぜん純情純情じゃないって知られたらーー】
【ほんとうの私を知っても……好きでいてくれるかな】
【今までは別れようって言われると、まぁ、いっかって気持ちがすっと潮が引くようになくなって、引き留めたこともなくて、また次の人と新しい関係を初めてーー】
【この恋は、終わらせたくないよーー】
【ならーー】
【ちゃんと話さないとだ】