純愛コンプレックス
5


◯休日 家。
ママから通話がくる。

ママ「真面目に生活してるみたいね」
白衣姿で職場から通話している様子。

真白「してるしてる」
(彼氏が出来たのはバレてないよね)とちょっとひやりとする。
 
ママ「この前のテストの成績も良かったし。この調子でいけば問題なく志望大学合格して東京戻れるわね」
真白「……うん」
ママ「真白? なにか問題があるの?」

真白「ううん! そうだね、勉強頑張る!」

◯机の上に重ねてある大学受験の問題集の隙間から大学のパンフレットを抜き出して手に取る。

真白【……純くんは、きっと東北(こっち)の大学に行く】

真白【絶対、東京の大学行くって思ってたのに】

机の上には東京と東北の両方の大学のパンフレットがある。

真白【不便なだけで、ここが嫌いなわけではないんだよなぁ……】


真白【でも、東京だからってだけじゃなくて、ずっと行きたかった大学ーー】

 
◯スマホの通知音
画面にビデオ通話を知らせる美菜のアイコンが表示される。
美菜は前の学校の友達。

真白「美菜ーどしたー」

美菜「まーしろ!」
夏乃「私たち、今どこにいるでしょお!」

画面に真白が住んでいる最寄り駅が映る。

真白(ん?)

美菜「さっぷらいずー!!」
夏乃「来ちゃった♡」
真白「……はい?」

◯駅舎
外の改札前のベンチに女の子ふたりが座っている。
 
美菜「あー! きたきた」
夏乃「真白ー!」両手をぶんぶん振っている。

真白(まじのサプライズだな!!)

真白「どうしたの、いきなり」
走って来たのではぁはぁと息を切らしている。

美菜「へへ、びっくりさせようと思って♡」
夏乃「だいせいこーう♫」イエイと顔の横でピースを作る。
美菜「びっくりした?」
真白「するわ」

真白(遠距離恋愛してる彼女に突撃訪問された男(現地浮気中)ってこういう気持ちかな)疲れ切った顔。

夏乃「いやぁー北の方に引越すっていうから、日本の果てに行っちゃった感覚だったけど」

真白「そこまで僻地じゃないから」
美菜「調べたら超弾丸だけど、日帰りでも行けちゃうみたいじゃん。なら、行っちゃう?ってなって」
夏乃「ちょうどテスト明けで塾ない日だったしねー」

真白「だからって、当然すぎでしょぉ」
美菜「真白はうちらに会いたくなかったのー?」こてんと首を傾ける。小悪魔系美女。

真白「もぉ! 会いたかったに決まってるー!!」
ふたりに抱きつく。
美菜「ふふふ〜わたしも」
夏乃「久しぶりー!」
きゃきゃ抱き合ってはしゃぐ三人。
 
◯真白の家に向かって歩く。

美菜「まじやば、なんもないな」
夏乃「コンビニなくね?」

見渡す限り家と道路しかない。

真白「あるよー駅前にないだけ」

美菜「スタバは?」
真白「電車乗ってけばある」
夏乃「毎日キャラメルフラペ飲まないと死んじゃうんだが」
美菜「スイパラもないん?」
夏乃「カラオケも?」

美菜「だめだ、わたし、ここでは生きてけない」
夏乃「うちもー」

美菜「真白まじえらいわぁ」
夏乃「髪も黒くなってるし」
美菜「すっぴん耐えられん」

真白:はははと乾いた笑みを返す。

真白【バカにしているわけじゃないんだよなぁ……】

楽しそうに辺りを見渡すふたりの後ろを歩く。

真白【こっち来た時、私もおんなじこと言ってたし】

美菜「まぁ、でも大学は東京でしょ?」
夏乃「あと一年もないしね。頑張って耐えろー」
美菜「ある意味、受験に適した場所ではあるよな」
夏乃「たしかに。誘惑は皆無だな。受験生にとっての理想郷かもしれん」
真白「……だね」
 
◯真白の部屋

スマホのアルバムを見ながら前いた学校の思い出話や、近況を教え合って盛り上がる。

美菜「これどこー?」
真白「これは校外学習の時の。なんか近くの山登った」
美菜「おっ、イケメン発見」
男女数人で写っている中からめざとく純を見つける美菜。

夏乃「どれどれ?!」
真白「はい。もう終わりー」
美菜「なに、怪しい!」
夏乃「えっ、もしかこれ?」と指でハートを作る。
美菜「マジ? ビジュ強過ぎん? さすが真白さん」
夏乃「どこまでやった!?」
真白「なんにもしてません」
夏乃「うっそだー」

夏乃ときゃあきゃあ騒いでいる真白を見ながら美菜が静かに微笑む。

美菜「新しい学校、楽しい?」
真白「うん」

美菜「そっか、良かった良かった」

優しく笑う美菜を見てうるっとくる。
転校するきっかけになった理由を知っているふたりは真白をとても心配してくれていた。

【メイクとか服の話は美菜たちとするのが楽しいし、好きなお店とか場所もいっぱいあってやっぱり東京は好き】

【なんもないし、通学二時間近くかかるし、東京に比べると退屈で不便だと思うこともたくさんあるけど】

【でも、ここの友達と、この場所でしか分かり合えない楽しいこともたくさんあるんだよねーー】

◯駅

美菜「じゃっ! また来るね」
夏乃「真白もたまにはこっち来てよ。うち泊まっていいからさ」
真白「うん。今日は来てくれてありがとね」

美菜「そうだ、夏。あれ、言ってない」
夏乃「あっ、そうだ。忘れてた」

真白がきょとんとして『なに?』と無言でふたりに視線を投げる。

美菜「真白、谷川さんとって、もう連絡とか取ってない?」
真白「……取ってない」

美菜「だよねぇ」
顔を見合わせる美菜と夏乃。

夏乃「谷川さんて、結局、あの後岸野とは別れたらしいんだけどさ」
真白「……うん」

過去の一コマ。
泣いて真白を睨んでいる女の子。

夏乃「あの後もSNSとかグルチャに真白の悪口っていうか、悪評書き込みまくってて」

   
美菜「岸野、真白に未練ある感じじゃん。別れたのも谷川さんは真白のせいみたいに思ってるぽいよね」
夏乃「逆恨みじゃんね」  
美菜「被害妄想っていうか。誰も本気にしてないからあんま気にしなくて大丈夫だと思うけど」
 
美菜「さすがに、こっちの学校の人がそういう書き込み目にする事はないだろうけど、一応、気を付けた方がいいかも」
夏乃「うちらも気にしとく。なんかあったら連絡するね」

真白「うん、ありがと」

ばいばーいと手を振って電車に乗り込む美菜と夏乃を見送る。

◯学校

朋美「そういえば、真白、一昨日、駅の方にいた?」

真白「えっ、うん」
ドキッとして冷や汗が出る。
・美菜たちが来てくれた日

朋美「じゃあ、やっぱ真白だったのか。ギャルっぽい感じの人といたから、人違いかなって思って声かけなかったんだけど」

真白「前の学校の友達が遊びに来てくれてたの」

朋美「そうなんだ。真白がああいう感じの子と仲良かったの、なんか、意外かも」

真白「そう、かな。前の学校、校則ゆるかったから髪とかは派手だけど……いい子たちだよ」

朋美「ふーん……そうなんだ」
ちょっと腑に落ちていない顔。


真白【朋美と紗理にも、ちゃんと話そう。美菜たちのことを誤解されちゃうのも、嫌だ】



◯放課後

校門のところに立っているいづみに気づいて足を止める。

いづみ「ちょっといい? 聞きたいことあるんだけど」

なんだろうと不思議に思いながら、いづみについていく。

真白「あの、話って……」

いずみ「純のこと騙して付き合ってるでしょ」
真白「え……?」
 
いづみ「清流さんの前の学校って、東京の成北学園ってとこ?」

 顔色を無くす真白。
 動揺して言葉が出てこない。
   
いづみ「これ、清流さんだよね?」

・スマホの画面を見せられる。

いずみ「こっちが本当の清流さんなんだよね?」

いづみに見せられたスマホの画面を見て固まる真白。

画面に写っているのはハロウィンパーティーで仮装をしている派手な男女の集団の中で笑っている真白の写真。
 
真白「どうして、これ……」
いづみに怪訝な顔を向ける。
 
いづみ「清流さんの従兄の投稿で何となく住んでる場所とか特定できたから、知り合いとか辿っていって同じ学校だった子見つけた」

◯洋介の何気ない日常投稿
東京にいた頃、真白の家に遊びに来た時などの投稿。顔は写ってないけれど知り合いが見れば真白だと分かるような写真もある。

いずみ「この投稿してた子に聞いたら色々教えてくれた。やばいね、あんた」

【この子友達の学校の転入生かも】
【今、こんなん】
※隠し撮りした現在の真白の写真

【天使とか呼ばれてみたいよ】
【男からね】
  
【なにそれ笑える】
【そいつやり◯◯だよー】
【パパ活で退学なってる】
【飲酒じゃなかった? クラブで補導されたって聞いた】
【違う】
【不倫】
【相手の奥さんに訴えられたんでしょ】

【元彼の投稿見て こいつの本性が分かる】
【URL】

いずみ「純粋(ぴゅあ)とか天使とか馬鹿じゃないの。みんな騙されちゃって」
 
いづみ「純が一番可哀想。嘘つかれて、こんな子と付き合って」
 
真白「……本当のこと、言えてないこともあるけど……嘘は、言ってない、です」

いづみ「開き直ってるし」

本当の自分を隠して付き合っていることも、学校のみんなに誤解させたままにしていることも、狡いと自覚している真白はそれ以上何も言えずに俯く。

いづみ「純と別れてよ。じゃないと純にも学校の子にも、あんたの本性、話すから」

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