男装して婚約者を演じていたらお兄様に目をつけられてしまいました
 週末、頼人さんが荷物を抱えて尋ねてきた。とりあえず話がしたそうだったのでコーヒーを淹れる。以前、丸留さんから頼人さんはルココちゃんの前ではルココちゃんに合わせて紅茶を飲むが、本当はコーヒー派だと聞いていた。

「砂糖とミルクは入りますか?」
「いや、必要ない」

 コーヒーを提供すると「ありがとう」と言ってすぐに口をつける。
 
「うまいな」

 優しく微笑む頼人さん。いつも敵視されていたからかなんだか背中が痒く感じる。

「これは君へのプレゼントだ」

 テーブルに置かれた荷物に視線を移す。一体何が入っているのだろうか。

「俺なりにどう父を説得するか考えてみた。その辺の男よりも有能だと証明できれば切り開けるかもしれない」

 そう言って荷物の中から次々に本を取り出していく。ビジネス書や日商簿記、ITパスポートなどの資格試験の本など社会人に必要なものが出てきた。通りで重そうなわけだ。最後に残されていたい袋からはノートパソコンが出てきた。

「まずは高収入を得られるように鍛えてやる。実力さえ見せつければどんな会社でも重宝されるだろうし、君も自信を持って面接に臨めるだろう」

 にっこりと微笑んで頼人さんは、私の隣に座り、ノートパソコンを開いてビジネスで使用する基本的なソフトの使い方やメールの書き方など一つ一つ優しく丁寧に教えてくれた。

「もうこんな時間か。飯でも食いにいくか」

 時計を見ればとっくに夜の八時を過ぎている。

「遅くまでありがとうございました」
「いくぞ」
「え?」
「飯を食うのだって作法を教えるためだ」
「はぁ」

 知識を詰め込み過ぎた私はテレビでも見ながら一人でのんびり食べたかったのだが作法と言われてしまえば断るわけにもいかない。私が努力している姿勢を見せることがルココちゃんのためになるわけだし、成功報酬へとつながる一歩になるわけだからここは頑張るか。
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