男装して婚約者を演じていたらお兄様に目をつけられてしまいました
どんな料理を披露するのかと台所までついていき、彼女の手捌きを拝見する。
「見る価値はないと思うのですが」
「暇だから見ているだけだ」
「はぁ……」
材料はキャベツにレタスにトマトとキューリにひき肉と卵。ロールキャベツとサラダといったところだろうか。
「ひき肉は鶏か?」
「はい」
白井の家は借金を抱えていると聞いている。だから鶏肉なのだろうか。彼女は、鶏肉をフライパンに豪快に入れて炒め始める。
「おい、まずはコネだろう」
「そうなんですか? うちはコネたりしないでそのまま炒めちゃいます」
そんな調理法があるのか? そもそもキャベツはいつ茹でるんだ。
「お湯を用意しようか?」
「助かります」
鍋に水を張り、火にかける。手伝うつもりはなかったが、手際が悪いと気になって仕方ない。白井はフライパンのほうに醤油をドバドバと入れていく。
「おい、何をしている」
「味付けです」
彼女は慣れた手つきで酒、砂糖、練りしょうがと次々に投入していく。これが庶民の作り方なのか? 頭が追いつかないうちに手際良く白井は準備していく。手際が悪かったわけじゃない。俺の見立てが誤っていた。
彼女はロールキャベツを作っているわけじゃない。二色丼ぶりを作っていたんだ!
ダイニングに並べられたのは二色の鶏そぼろ丼と豆腐とわかめとキャベツの味噌汁にサラダ。サラダには、レタスとキャベツとわかめときゅうりとトマトが使われていた。ドレッシングは市販のもの。
俺は何を期待していたのだろうか。いや、まだ味わってないじゃないか。味が良ければ全てよしだろう。一口食べる。
「……味見していたか?」
「あ〜してません」
「つまり、これはいつもの味か?」
「はい」
口にご飯を頬張った白井が答えた。
濃すぎる。味が……濃ゆい……。
「これ以外に得意料理はあるか?」
「得意料理はないですが、よく作っていたのは野菜炒めとか、焼きそば、チャーハンとか」
なんとなく分かってきた。
「えっと、弟たち育ち盛りなので、質より量でして、パパッと作ってあげたほうが喜びまして」
だんだんと声にハリがなくなり、早口になっていく。
「もちろん、これから料理も頑張ります。そうですよね。料理だって大事ですもんね」
久しぶりに感情を露わにする彼女。いじめたいわけではなかったのに困らせてしまった。
「なんて偶然。わたくしもお料理教室に通おうと思っていたのです。一緒に通いましょう」
「料理教室ですか?」
「ええ。丸留、お見せして」
丸留がどこからかタブレットを取り出し、料理教室の宣伝ページを表示させた。ルココがこの教室に通うのか?
「これ、個別指導じゃないぞ」
「ええ。グループワークというものらしいですわ」
「こんなところに通わなくてもうちの料理人に」
「わたくしはこの先生に習いたいのです。沢山本を出しておられて、テレビでも活躍されている有名レストランのシェフですのよ」
隣にいる白井を見たがポカンとした表情を浮かべている。あまり興味はないのだろう。
「たまたまひとグループ分空きがあるとのことなので申し込んでおきましたの」
「水曜の19時からって大丈夫なのか?」
「花嫁修行のためと言って承諾いただきましたわ」
結婚に後ろ向きだった娘が前向きになったことで両親の判断も緩んだのだろう。
「世奈様とお兄様も一緒ならとても楽しくお料理を学べると思いますの」
「俺もか?」
「ええ。人グループ四人までなのです。わたくしと世奈様とお兄様と丸留でひとグループできますわ」
人見知りするルココには知らない人ばかりの中で学ぶなんてできるのだろうかと思っていたが、そういうことか。丸留にケーキを作らせたのも、彼女に夕食を作らせたのもこのためだったのか。
「仕方ないな。俺たちも協力するか」
俺は彼女と目を合わせる。
彼女は苦笑いを浮かべ「はあ……」と返事をした。
「見る価値はないと思うのですが」
「暇だから見ているだけだ」
「はぁ……」
材料はキャベツにレタスにトマトとキューリにひき肉と卵。ロールキャベツとサラダといったところだろうか。
「ひき肉は鶏か?」
「はい」
白井の家は借金を抱えていると聞いている。だから鶏肉なのだろうか。彼女は、鶏肉をフライパンに豪快に入れて炒め始める。
「おい、まずはコネだろう」
「そうなんですか? うちはコネたりしないでそのまま炒めちゃいます」
そんな調理法があるのか? そもそもキャベツはいつ茹でるんだ。
「お湯を用意しようか?」
「助かります」
鍋に水を張り、火にかける。手伝うつもりはなかったが、手際が悪いと気になって仕方ない。白井はフライパンのほうに醤油をドバドバと入れていく。
「おい、何をしている」
「味付けです」
彼女は慣れた手つきで酒、砂糖、練りしょうがと次々に投入していく。これが庶民の作り方なのか? 頭が追いつかないうちに手際良く白井は準備していく。手際が悪かったわけじゃない。俺の見立てが誤っていた。
彼女はロールキャベツを作っているわけじゃない。二色丼ぶりを作っていたんだ!
ダイニングに並べられたのは二色の鶏そぼろ丼と豆腐とわかめとキャベツの味噌汁にサラダ。サラダには、レタスとキャベツとわかめときゅうりとトマトが使われていた。ドレッシングは市販のもの。
俺は何を期待していたのだろうか。いや、まだ味わってないじゃないか。味が良ければ全てよしだろう。一口食べる。
「……味見していたか?」
「あ〜してません」
「つまり、これはいつもの味か?」
「はい」
口にご飯を頬張った白井が答えた。
濃すぎる。味が……濃ゆい……。
「これ以外に得意料理はあるか?」
「得意料理はないですが、よく作っていたのは野菜炒めとか、焼きそば、チャーハンとか」
なんとなく分かってきた。
「えっと、弟たち育ち盛りなので、質より量でして、パパッと作ってあげたほうが喜びまして」
だんだんと声にハリがなくなり、早口になっていく。
「もちろん、これから料理も頑張ります。そうですよね。料理だって大事ですもんね」
久しぶりに感情を露わにする彼女。いじめたいわけではなかったのに困らせてしまった。
「なんて偶然。わたくしもお料理教室に通おうと思っていたのです。一緒に通いましょう」
「料理教室ですか?」
「ええ。丸留、お見せして」
丸留がどこからかタブレットを取り出し、料理教室の宣伝ページを表示させた。ルココがこの教室に通うのか?
「これ、個別指導じゃないぞ」
「ええ。グループワークというものらしいですわ」
「こんなところに通わなくてもうちの料理人に」
「わたくしはこの先生に習いたいのです。沢山本を出しておられて、テレビでも活躍されている有名レストランのシェフですのよ」
隣にいる白井を見たがポカンとした表情を浮かべている。あまり興味はないのだろう。
「たまたまひとグループ分空きがあるとのことなので申し込んでおきましたの」
「水曜の19時からって大丈夫なのか?」
「花嫁修行のためと言って承諾いただきましたわ」
結婚に後ろ向きだった娘が前向きになったことで両親の判断も緩んだのだろう。
「世奈様とお兄様も一緒ならとても楽しくお料理を学べると思いますの」
「俺もか?」
「ええ。人グループ四人までなのです。わたくしと世奈様とお兄様と丸留でひとグループできますわ」
人見知りするルココには知らない人ばかりの中で学ぶなんてできるのだろうかと思っていたが、そういうことか。丸留にケーキを作らせたのも、彼女に夕食を作らせたのもこのためだったのか。
「仕方ないな。俺たちも協力するか」
俺は彼女と目を合わせる。
彼女は苦笑いを浮かべ「はあ……」と返事をした。