男装して婚約者を演じていたらお兄様に目をつけられてしまいました
饒舌に語られるBL世界の素晴らしさに呆気を取られていると一通り話し終えたルココちゃんが落ち着いた声でこう付け加えた。
「ーーですから、わたくしはまだ夢の中にいたいのです」
まだということはそのうち受け入れる覚悟はあるのだろう。ただ、今ではないと言うことだ。
「わたくしが芹沢ルココである限り、会社のための政略結婚は受け入れざるを得ません。ですが、まだ二十歳の身。せめて大学卒業まで周りと同じく自由の身でありたいのです」
大学卒業まで自由の身でありたいというその言葉が胸を打った。
私も卒業までは親の庇護のもと暮らしていくのが当たり前だと思っていた。でも突如として降りかかった親の借金。私の当たり前は残り半年で崩れ去った。あの時私は就職が決まっているからという理由で自分を優先することだってできた。家族を捨てて、一人で生きていくことだってできた。でも私がそんなことしたら弟や妹は、私がその日まで当たり前にあった友達との時間や学ぶ時間、そして自由に自分を育む時間を失ってしまう。私より遅く産まれたというだけの理由で。だから私は決めた。二人に私のような思いをさせないように、私が二人を卒業させると。
ルココちゃんもまた、産まれた環境が故に当たり前を奪われてしまうんだ。永遠にということではなく、期限付きの我が儘なら少しは手を貸してもいいかもしれない。
「私にできることってなんですか?」
影に覆われていたルココちゃんに光がさす。
「わたくしの愛して病まない人になっていただき、相思相愛で決して親の権力に屈しない男性を演じていただきたいのです」
「演技なんてできないですよ」
「ご安心ください」
ルココちゃんは胸に手を当て自信満々に続ける。
「わたくしにはわたくしの我儘をなんでも聞いてくれる兄がおります。私に愛する人がいて、将来結婚したいと伝えれば協力してくださることでしょう」
「えっと、それならお兄さんに結婚したくないって言ったらどうですか?」
「言いましたとも。ですが、兄はこう言ったのです。わたくしに自由な時間を与え、苦労のない生活を与えられる相手を選んでやろうと」
ルココちゃんはテーブルに手をつき立ち上がる。
「ちがうのです! 分かりますよね」
身を乗り出して訴えるルココちゃんに頷くことしかできなかった。
「兄にはわたくしの心なんて分かりっこありませんわ。ですから、自分で見つけましたと伝えるのです。そうすれば兄もわたくしの味方をするしかありませんわ」
自信満々にルココちゃんは椅子に座る。
「あの、そんなに上手くいきますか?」
「大丈夫ですわ。もうピーンときましたもの。これは運命ですわ」
ルココちゃんが丸留さんを呼ぶと丸留さんが手に持ったアタッシュケースを開く。
アタッシュケースの中には一万円札の束が5つ並んでいた。
両親もきっとこんな感じで目の前に積まれたお金に騙されたのだろう。ダメだと思いつつも私はルココちゃんが提案する契約の話に耳を傾けた。
「ーーですから、わたくしはまだ夢の中にいたいのです」
まだということはそのうち受け入れる覚悟はあるのだろう。ただ、今ではないと言うことだ。
「わたくしが芹沢ルココである限り、会社のための政略結婚は受け入れざるを得ません。ですが、まだ二十歳の身。せめて大学卒業まで周りと同じく自由の身でありたいのです」
大学卒業まで自由の身でありたいというその言葉が胸を打った。
私も卒業までは親の庇護のもと暮らしていくのが当たり前だと思っていた。でも突如として降りかかった親の借金。私の当たり前は残り半年で崩れ去った。あの時私は就職が決まっているからという理由で自分を優先することだってできた。家族を捨てて、一人で生きていくことだってできた。でも私がそんなことしたら弟や妹は、私がその日まで当たり前にあった友達との時間や学ぶ時間、そして自由に自分を育む時間を失ってしまう。私より遅く産まれたというだけの理由で。だから私は決めた。二人に私のような思いをさせないように、私が二人を卒業させると。
ルココちゃんもまた、産まれた環境が故に当たり前を奪われてしまうんだ。永遠にということではなく、期限付きの我が儘なら少しは手を貸してもいいかもしれない。
「私にできることってなんですか?」
影に覆われていたルココちゃんに光がさす。
「わたくしの愛して病まない人になっていただき、相思相愛で決して親の権力に屈しない男性を演じていただきたいのです」
「演技なんてできないですよ」
「ご安心ください」
ルココちゃんは胸に手を当て自信満々に続ける。
「わたくしにはわたくしの我儘をなんでも聞いてくれる兄がおります。私に愛する人がいて、将来結婚したいと伝えれば協力してくださることでしょう」
「えっと、それならお兄さんに結婚したくないって言ったらどうですか?」
「言いましたとも。ですが、兄はこう言ったのです。わたくしに自由な時間を与え、苦労のない生活を与えられる相手を選んでやろうと」
ルココちゃんはテーブルに手をつき立ち上がる。
「ちがうのです! 分かりますよね」
身を乗り出して訴えるルココちゃんに頷くことしかできなかった。
「兄にはわたくしの心なんて分かりっこありませんわ。ですから、自分で見つけましたと伝えるのです。そうすれば兄もわたくしの味方をするしかありませんわ」
自信満々にルココちゃんは椅子に座る。
「あの、そんなに上手くいきますか?」
「大丈夫ですわ。もうピーンときましたもの。これは運命ですわ」
ルココちゃんが丸留さんを呼ぶと丸留さんが手に持ったアタッシュケースを開く。
アタッシュケースの中には一万円札の束が5つ並んでいた。
両親もきっとこんな感じで目の前に積まれたお金に騙されたのだろう。ダメだと思いつつも私はルココちゃんが提案する契約の話に耳を傾けた。