神様、どうか目をつぶってください!
「魔王城だけど? で? で? 君は遥々こんなところまで何しに来たの?」
そうだ、私は魔王様に用があるんだった。
怯えているだけではいけない。
話を聞いてもらえるなら、しっかりしないと!
震えてしまってはいたけれど、どうにか聞き取ってもらえるであろう声を発することはできた。
「あ……な……が、空いておりまして! 人間界……と魔界の間に……」
「へえ、穴が。それで観光しに?」
「い、いいえ、とんでもありません! 観光に来られているのは、そちらの……ゴブ、ゴブリンです」
「えー、いいなー」
「ちっともよくなんか、ありません……揚げパン屋のおかみが、揚げたてのパンに砂糖をまぶし終えたタイミングで、その……盗んで試食したりとか……」
「おいしそう」
「おいしいです。ですが……無銭飲食はいけません」
話しているうちに、不思議と魔王様と話すことに対する恐怖心は薄れていった。
魔王様が機嫌よさそうに、微笑みながら聞いてくれるのが大きかったのかもしれない。
「それから、子どもたちが読み書きを習っている教室に乱入し、子どもたちの席を奪い、代わりに授業を受けようとしたことも……」
「感心じゃないか」
「向上心があるのはいいことですが、子どもたちの学ぶ機会を横取りしてはいけません」
魔王様はぷくっと頬を膨らませた。