神様、どうか目をつぶってください!
ゴブリンの反応を見る限り、ゴブリンには私の言葉が通じているみたいだ。
けれど、私にはゴブリンの話していることはわからない。
「そっかー」
「な、何……」
突如視界が暗くなった。
魔王様の腕が伸びてきたのだ。
ガシッ! と、その大きな手が私の前頭部を掴んだ。
長く鋭い爪が頭皮に食い込む。
卑怯だわ!
逃げようなんて露ほども考えないほどに、すっかり油断させておいてから、こうして手を出してくるなんて。
硬直してしまった私の体は、もはや悲鳴すらも出せない。
恐怖で鼻の奥がツンとした。
と、魔王様の腕がスルッと離れた。
「これでいい。ジョゼにも、全種族の言葉が理解できる魔法をかけたよ」
頭を押さえていた力が緩んだ途端、私はその場にヘロヘロと座り込んでしまった。
呼吸が苦しく、肩が上下する。
「……こ、怖かった」
「あっ、ごめんね」
「神様、この命を助けていただいたこと、心から感謝します」
「ええっ? そこって、僕に感謝するんじゃないの?」
まだ動悸がおさまらず、へたり込んでいた私の周りをゴブリンたちが囲んだ。
「ジョゼ、俺の言葉わかる?」
「わかったら返事してよ」
「僕のは? ねえ、わかる?」
「それよりも早く立って掃除しようよ」
ほんの数分前まで『ギィ』としか聞こえなかった声が、意味のある言葉に変わっていた。