神様、どうか目をつぶってください!

「これでいいわ。みんな、調理器具を清潔な布で拭いてくれる?」

 みんなは、『はーい』と素直に指示に従ってくれた。

「聖女ってすごいんだね」
「ふふん、そうでしょう?」

 『聖女』と呼ばれて、誇らしい気持ちになった。

「ねえ、魔王様の部屋もこうやって洗えばよかったんじゃないの?」

 ぐうっ!
 所詮は、付け焼き刃で『聖女』の称号をもらっただけの聖女見習いなのだ。
 厨房を清めるための聖水を出すだけで魔力切れ……
 あのだだっ広い部屋なんて、とてもではないけれど無理だ。

「ごめんなさい。これが私の精いっぱいなの。これ以上は聖魔法を使えないから、今日のところはおいとまするわ」

 退出しようとすると、ゴブリンたちが厨房の出入り口を立ち塞いだ。
 慌てていたせいで、拭いていた調理器具を握りしめたまま。

「聖魔法なんて使えなくてもいいから、まだ帰らないで」
「そうだよ、夕食も一緒に作って、一緒に食べよう?」
「魔王様だってジョゼが来たから楽しそうにしてるのに、帰っちゃったら哀しむよ」
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