神様、どうか目をつぶってください!

 絶望感でいっぱいになったそのとき、何かがシュッっと穴から抜け出てきた。

「あー……」

 咄嗟のことに一歩も動けない私。
 それとは対照的に、神官長の素早いこと!
 腰を曲げ、それを思いっきり掴むと、光速で穴の中へ投げ返してしまった。

「……お、おお!」
「……見事な……」

 陛下と近衛兵たちがパラパラと拍手した。
 一応は称賛しているものの、一様にドン引きしている。

「神官長、神官長が行ってくださいよ!」
「な、何を言っているんだ。第一、私は腰が悪いから、この穴を通ることなどできないっ」

 えっ、たった今素晴らしい身のこなしでしたよね?

 私は神官長の腰を細目でみた。

 あっ、でも確かに……
 腰というか、腰回りというか、そのお腹ではこの穴は通ることはできそうにありませんね……

 ああ、ですが神様! 本当に私が行かねばならないのでしょうか?
 このような試練、どう考えても乗り越えられる気がしないのですが!

 さきほどのあれはゴブリンである。
 最近街に出没して悪さをしては、善良な市民のみなさんを怖がらせている。
 そこで先日陛下の指示により大規模な調査がおこなわれ、ここ街道沿いの林でこの穴が発見されたという次第だ。

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