神様、どうか目をつぶってください!

 ……はずが、まさにそのとき、私は神殿の柱の陰から、神官長の前に瞬間移動させられていた。

「えっ、何? どういうこと?」

 神官長の顔は引きつっていた。
 しかし、声を張り上げた。

「召喚は成功した! この者こそが神のお連れし勇者である!!」

 私は周りを見回した。
 しかし、勇者なんてどこにもいない。
 私がいるだけ。

「よもや、我らの仲間ジョセフィーヌが召喚されようとは! しかし彼女こそが勇者である!」
「な、そんなはず……」
「しっ!」

 神官長は怖い顔で睨んできた。

「この場は黙っていなさい」
「そんな……」

 今さら何を言おうと、かき消されてしまうほどの大歓声が上がっていた。
 どうにもできなかった。
 そうして、『勇者』ではなく『聖女』の肩書をもらうことになり、穴の前に連れてこられたのだった。

 ああ、神官長がどれだけ言い張ったところで、あれは絶対に召喚ではなく単なる転移だったのに!
 それもほんの数十メートルの──

 それでも魔王との交渉役として転移されてしまった以上、恨み言はこれくらいにして、そろそろ行かなくては。
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