あざと男子の有坂美くんと、キャラメルなわたし
1話
〇冒頭・教室
心和は驚いた表情で有坂美を指さす
有坂美の金髪の髪の毛がさらりとゆれる
※有坂美は黒色だった髪を金髪に染めている(1話で説明)
有坂美は少し口角をあげる
有坂美「どう?」
心和「ど、どうしたの!?」
有坂美「おそろいだね?」
有坂美は、さらりと心和の髪の毛をなぞる
ドキッとする心和
心和「なんで……!?」
有坂美「これで、心和ちゃんのことひそひそ言う人も減るんじゃない?」
有坂美は屈んで心和の顔を覗き込む
ドキッとする心和
心和(有坂美くんが別人になったのは……)
心和(私のため――!?)
〇学校の廊下(昼)
(前日に遡る)
校内の廊下を歩く心和
窓から入り込む風で、心和の髪の毛はふわりとなびく
心和の髪色は、キャラメル色
生徒「あの人が成海さん?」
生徒「一人だけ異質だよね……」
ひそひそと心和の噂話をする女子生徒
心和にも聞こえている
※心和が廊下を歩くシーンに、心和のモノローグを乗せる。
心和(好奇の目にはもう慣れた)
心和(私が注目されてしまう理由は、この生まれつきの髪色だ)
心和(生まれつきキャラメル色の髪は、規則に厳しいこの学校では特に目立つ)
高野「成海! その髪色は違反だぞ! まだ黒染してないのか!」
風紀の高野先生。強面の男子教師
厳しい目つきで心和を睨む
心和「何度も言ってるけど、地毛なんです!」
強気に返す心和だが、手のひらをぎゅっと握っている(本当は小心者ということを読者に提示)
先生「またそれか。いいから黒髪にしなさい」
心和「でも……」
先生「お前だけだぞ? みんなの輪からはみ出しているのは」
高野先生は、心和を見下ろす※心和の言うことをもっぱら信じていない様子
浅くため息をついて、その場を去っていく
高野先生の言葉に、心和はずきんと胸が痛む
心和(みんなの輪からはみ出してるのは昔からだ)
心和(私だって……はみ出したくて、はみ出てるんじゃないのに……)
悲しそうな顔でグッと唇を噛み締める心和
心和の背後で、追い打ちをかけるように、ひそひそと話す女子生徒たち
生徒A「また先生に注意されてる」
生徒B「先生に注意されても、あのままなんだ」
生徒C「さっさと黒染すればいいのにね」
自分の噂話が聞こえてる心和
涙目になっていたのを、グッと飲み込む。
顔を左右に小さく振って、涙目の顔から、スンと平気な顔に変わる
心和(私だって、できることなら黒染したい)
心和(だけど理由があるんだ……)
〇回想シーン・心和の小学生時代
心和の自宅・リビング
ランドセルを背負って、泣きながら帰ってきた心和
心和「ママぁ~。また髪色のせいでいじめられた」
心和母「そっか……」
心和「こより、ぐすっ。黒く染めたいッ」
心和母「そうだね。美容室で黒くしてもらおうか」
涙目でいう心和母
〇場面転換・美容室
美容室で椅子に座り、カットケープをする心和
カラーの事後。真っ黒に染まった髪の毛を鏡越しに見る心和
心和「うわぁ……みんなと同じだ」
自分の髪の毛が黒く染まったのを見て、嬉しそうに笑う心和
<時間経過>
心和「頭が痛い。頭皮? 焼けるように痛い」
次の日、目を覚ました心和は、顔が真っ赤に晴れていた(アレルギー症状)
(回想終了)
〇現代へ 教室(昼)
教室で自分の席に一人ぽつんと座る心和
心和(黒染めしたくても、アレルギーで染められないんだ)
心和(先生にだって何度も伝えたのに……)
心和(全く信じてもらえなかった)
女子生徒A「また先生に注意されてたって。別のクラスの子が言ってたよ?」
女子生徒B「目立ちたいんだよ~きっと」
女子生徒C「なに言われても平気そうな顔してるもんね」
ひそひそと陰口をいうクラスメイトたち
心和にも聞こえているが、すんと平常心の表情の心和のカット
立て肘をついて頭を抱えて、下を向く心和
心和(本当は全然平気じゃないよ~~)
心和(悪口だって全部聞こえてるし、そのたび泣きそうなのに~~)
下を向いている表情は半べそ
※みんなの前では、平気なフリをして平常心を装っているだけ。※本当は小心者ということを読者に提示
〇回想シーン・心和小学生時代
小学生の友達に囲まれている心和。
友達「心和ちゃんの髪色へんなの~」
友達「目立ちたくて染めてるんだよ」
心和「ち、ちがうもん……」
大粒の涙を流しながら否定する小学生時代の心和。
友達「うそだ」
友達「そんな髪色変だもん! 泣き虫!」
友達「うそつき! 泣けばいいと思ってるんだ」
泣いたことにより余計に責められてしまう。
俯いて泣きそうな心和は、友達にあざ笑われる
(回想終了)※数コマで簡略的な回想
〇元の現代へ 教室(昼)
心和は瞳に涙をためて、今にも涙が落ちそう。
心和(悪口を言われて泣いたり、悲しそうな顔をすると、さらにひどくなる)
心和(つらくて、しんどくて……)
心和(そんなとき、平気なフリをしたら、自然と言われなくなった)
心和(だから私は今日も殻をかぶる)
グッと唇を噛み締めて、心和は顔をあげる
※涙は引っ込み、すんとすました表情
心和が本当の自分を隠して、強がっていることを読者に提示
有坂美「おはよ~」
クラスメイトの有坂美が挨拶しながら登校する。
クラスの女子たちが一斉に駆け寄る
女子生徒「有坂美くんおはよ!」
女子生徒「おはよぉ~」
有坂美「あ、笹野さん、髪型違う! かわいい~」
クラスの女子が髪型を変えたことにいち早く気づく有坂美
ニコニコ笑顔で褒める
女子生徒「え、誰も分からなかったのに……」
有坂美「すぐにわかったよ? だってかわいいもん」
ニコッと満面の笑みを浮かべる有坂美
ぽっと頬を赤らめる女子生徒
有坂美の全身カットと、かわいらしい顔のアップカットをいれつつ、心和のモノローグを乗せる
※有坂美は萌袖をするなど、あざとかわいい見た目
心和(クラスメイトの有坂美くん)
心和(女の子顔負けの透き通った白い肌に、きゅるんとした瞳)
心和(その辺の女子より、かわいいと言われている)
心和(アイドル的存在の有坂美くんは、ファンクラブまで存在しているらしい)
心和(顔だけじゃなく、人当たりが良くて、きっと彼を嫌いな人なんていないだろう)
有坂美「あ、成海さんおはよ!」
心和「お、おはよ……」
有坂美はくしゃりと笑って心和にも挨拶をする
有坂美「あ、成海さん糖分足りてないんじゃない?」
有坂美は心和の口にポケットから出したキャラメルを放り込む。
心和「(むぐっ)……あまい」
キャラメルの甘さに、ツンケンしていた表情がゆるむ心和。
有坂美「甘いでしょ? 糖分補給大事だよ?」
心和(みんなから距離を置かれている私にもこの笑顔)
心和(この眩しい笑顔を向けられて、私も素に戻ってしまいそうになる)
心和(そう……彼は、あざとい)
心和(有坂美くんは、あざと男子なのだ)
有坂美のかわいいアップカット。
心和の隣の席に座る有坂美
有坂美が自分の席に座ると、女子たちが一斉に群がってくる
隣の席の心和は押し出されてしまうような迫力
有坂美「あ、みんなごめん! 僕、課題やるの忘れててさ」
有坂美「朝の時間、ちょっと集中させて?」
女子生徒「私の課題やってきたよ。ノートみせてあげる」
女子生徒「まって! 私の方が字綺麗だよ?」
有坂美にノートを見せようと、プチ乱闘が起きる
心和は隣の席から、引いた感じで見つめる
有坂美「まって! それだと僕のためにならないじゃん!」
女子生徒「あ……」
女子生徒「そうだけど……」
有坂美にやんわり注意されて、しょんぼりする女子生徒たち。
有坂美「でもありがとうね? その気持ちだけで、頭良くなった気がする」
有坂美の言葉に、しんと静まり返った空気が一気に緩和する。
心和(わぁ、有坂美くんの言葉一つで、教室の空気がくるくる変わる)
心和(まるで空気の私とは正反対だ)
心和はじっと有坂美をみつめる。
有坂美は心和に見つめられていることに気づいて、にこっと笑う。
心和はハッと気づいたようなリアクションをして、すぐに視線を逸らす。
心和(見てたことバレたかな)
心和はちらりと視線をもう一度有坂美に移す。
心和(私も有坂美くんみたいに人気者だったら)
心和(こんなコンプレックスがあっても、笑って過ごせるのかな)
心和はさらりと、自分の髪の毛の毛先を触って見つめる。
<時間経過>
ホームルーム後、がやがやと騒がしい教室
生徒「この後、どこかで話そうよ」
生徒「ワックいく?」
あっという間にぽつんと取り残される心和
心和(いいなぁ~~)
心和(私も友達と放課後に寄り道したいなぁ~~)
涙目で羨ましそうにする心和のデフォルメ絵
大きなため息をつく
心和「そんなの無理だよね……」
心和「昔みたいに嘘つき呼ばわりされるのがイヤで、自分から距離を置いてるんだもん」
ぽつりと呟く心和
次第に涙目になっていく
心和「ほんとうは友達ほしい~~」
心和「普通の高校生活送りたい~~」
心和は涙目で上を向いて叫ぶ
教室のドアの方から、がたッと物音
心和はハッと視線を送る
心和「な、な、有坂美くん……!?」
有坂美「……」
ドアに身体を持たれかけながら少し驚いた表情の有坂美
本音を有坂美に聞かれた心和は、わたわたと慌てる
心和「あ、あのね、さっきのは……」
有坂美「そっちが素なの?」
目を丸くして驚いた様子の有坂美は心和に話かける
聞いていた有坂美に悟られた心和は、一瞬考える
心和「う、うん……いつもは気にしてないふりしてるっていうか。平気なフリしてるっていうか」
心和(あぁ、なに言ってんだろう)
心和(本当は小心者なことがバレたら、また余計に陰口言われるのに)
有坂美「なーんだ! そうだったんだ」
有坂美「なんで自分に嘘ついて過ごしてるの?」
嘘という言葉に過剰に反応する心和
心和「この髪色が地毛だって説明してもみんな信じてくれない」
心和「信じてもらいたい人に、そういわれるのは辛いって知ってるから」
有坂美「だから、人を遠ざけてるってこと?」
有坂美はうーんと人差し指を顔につけて考える※あざといポーズ
有坂美「……綺麗な色なのにね」
心和「え?」
有坂美「ほら、僕が好きなキャラメルと同じ色」
有坂美はポケットからキャラメルを出すと窓にかざす。
キャラメルに光が当たるカット
心和「人気者の有坂美くんにはわからないよ……」
心和「この髪色のせいで、周りからどれだけ冷ややかな目で見られてきたのか……」
心和「ただ普通に生活したくて。私がどんな気持ちで、嘘ついて……自分を隠して、過ごしてるかなんて」
心和は言った後で、ハッと我に返る。
心和(有坂美くんに八つ当たりしちゃった……)
心和は失言に反省して、ばつが悪そうに下を向く
有坂美はうんうんと真剣に心和の話を聞いていた。
有坂美「僕はつんとした成海さんより、今みたいに戸惑ったり驚いたり。表情がくるくる変わる成海さんの方が好きだな」
有坂美の直球な言葉に、心和はドキリとする
心和(だめだめ)
心和(有坂美くんはあざと男子なんだから)
心和(あざと男子は誰にでも「すき」とか日常会話なんだよ)
※注釈:個人差があります
心和は顔を左右に振る
有坂美「あ……でも、やっぱりやめよっか」
有坂美は心和に近づいてきて、心和の顔を覗き込む
有坂美「僕だけに見せてほしい」
心和「えぇ?」
有坂美「他の人になんてみせてあげない!」
有坂美は至近距離でニコッと笑う。
ドキドキして顔が赤くなる心和。
有坂美「なーんてね。成海さんが本当の自分を隠さないで済むように考えようよ?」
心和「そ、そんなこと……無理だよ」
有坂美の言葉が嬉しくて、心和は一瞬表情を明るくさせるが、すぐに我に返る。
心和(今までたくさん考えてきた)
心和(そうして、たどり着いたのが、今の状況だもん)
心和は表情を曇らせる。
男子生徒「有坂美ー! 忘れ物あったのかぁ?」
廊下から有坂美を呼ぶ男子生徒の声。
2人の世界だった空気は、一気に現実に引き戻される。
有坂美「じゃぁ、またね? 心和ちゃん」
振り向きざまに軽くウィンクをして去っていく有坂美。
教室に取り残された心和は立ち尽くす。
〇次の日・教室(朝)
朝、ホームルーム前の教室。
自分の席に座っていた心和に、クラスメイトの男子が近づいてくる。
座っている心和を見下ろして、ちょっと嫌そうな顔をする男子生徒たち。
男子生徒「いい加減さ、その髪色辞めたら?」
心和「え?」
男子生徒「だってさ、目立ちたいんでしょ?」
あざ笑う男子生徒たち
心和は、ドクンドクンといやに心臓が鳴る
心和(直接悪意のある言葉を言われるのって久しぶりだ)
心和(陰口も辛いけど、向けられた言葉は、弾丸のように心に刺さる)
心和(こんな髪色じゃなければ……)
心和(もう、こんな毎日いやだよ)
泣きそうになりながら、ぎゅっと目をつむる心和
有坂美「勝手な推測で決めつけんなよ」
有坂美の登場。
いつものにこにこした有坂美ではなく、無表情で気迫がある。
心和「あ、有坂美くん!?」
教室がざわざわと騒がしくなる
有坂美の顔以外のカット
女子生徒「え、どうしたの!?」
女子生徒「ほんとうに有坂美くん!?」
ざわっとクラスメイトたちが大勢ざわつく。(有坂美の髪色が金髪に染められているから驚いている)
心和は驚きのあまり固まる
有坂美の全身カット。髪色が金髪に染められている
有坂美「昨日考えたんだけどさ……」
有坂美「やっぱりもったいないよ。成海さんが嘘をついてるの」
有坂美「その髪色だってすごく綺麗なのに」
心和(なんでかな……)
心和(きらりと光に反射する有坂美くんの髪色に)
心和(瞳が吸い込まれて離れない)
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