君と始める最後の恋
それから1週間後だった、ちょっとした問題が起きたのは。

問題というか、予想は若干付いていた所はあったけど。


「指導係、桜庭さんに変えてもらえませんか。」


いつも通り志織ちゃんと業務の確認をしながら指導をしている時、小川くんが私と先輩の前でそんな話をしてきた。

入社して一週間、ちょっと痺れを切らしてくる頃だとは思っていた。

私も昨年ちょうど1週間だった気がする。

先輩は無表情で何も返さない。

あまりに重たい雰囲気に耐えられなくなって、先に私が口を開く。


「い、いやいや私に営業の指導は出来ないよ…。」

「でもある程度業務内容はご理解されてますよね。俺も水無月みたいに指導を受けたいです。」

「入って1週間の新人が指導係変更の申し出、ね。本当誰かさんにそっくり。」

「先輩、やめてください」


誰に向けられた言葉かしっかり分かるので気まずくなってしまう。

先輩は鼻で笑った後、小川くんに向き直す。


「君、この1週間何やってた？」

「雑用です。」

「その雑用の間で、本当に何も身に付かなかった？」

「…どういうことですか」


先輩の含みのある言葉に、小川くんは眉間に皺を寄せて聞き返す。

先輩はかなり言葉が足りない方だとは思う。

もう少し伝えてあげてもとは思うけど、先輩は不器用だ。

私は先輩の事が多少わかるから不器用なんだよねで済ませられるけど、まだ付き合いの浅い小川くんからしたら、指導を面倒臭がっている様にしか見えないと思う。

だけど、もう少し、もう少しだけでも先輩の元に居ればそうじゃないんだって分かってくれるはず。私もそうだったから。
< 105 / 286 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop