君と始める最後の恋


『今日から営業2課でお世話になります!

桜庭(さくらば) (いく)です!

やる気だけはあります!

よろしくお願いします!』


そうハツラツとした声で元気に挨拶をする私は先程名乗った通りである。

営業2課の補佐として配属された。

大学卒業後すぐにこの春からここに入社して、営業2課の島の前で挨拶をして暖かい拍手で迎え入れられる。

また別の島では私の挨拶なんて興味も無さそうに慌ただしく回っていて、少し寂しくはありつつもこんなもんかと社会を早くも少しだけ実感する。


「はい、桜庭さんね。分からない事あったら、指導係に聞いてね。そうだなぁ、指導係は…。一ノ瀬くん。」

「は、い。」


ほんの少し遠くから少しだけ驚いたような男の人の声が聞こえてくる。

その男の人の声の方を見ると、サラサラで柔らかそうな黒髪で眼鏡を掛けている。

眼鏡で隠れている部分があったとしても分かる綺麗な顔立ち。

男性の方であるのは分かるが、立ち上がった姿がスタイルも良くてかなり細身で華奢だった。

身長も170後半と言った所だろうか。


「一ノ瀬くん、この子頼むね。」

「は、僕がですか?」

「うん、君は入って1年だけど優秀だから。」

「光栄です。でも、僕には少し荷が重いような」

「まあ、そう言わずやって見てよ」


今、その本人の目の前でお荷物の押しつけ合いみたいな会話が始まっている。


「(私、やる気と根性しかないですけどそんな押しつけ合いしなくても…。)」


なんだか複雑ではある。

課長は“一ノ瀬”と呼ばれた恐らく1つ上である先輩に私を預けてそそくさとデスクに戻ってしまった。
< 2 / 286 >

この作品をシェア

pagetop