あまく翻弄される
2
「伊織くん。そういえば今日泊まっていく?」
皿洗いを手伝うと聞かない伊織くんの背を押してキッチンから追い出しながら、そういえばと切り出す。
ぴたりと足を止めた伊織くんの背にそのままの勢いで顔面からぶつかる。
「……わっ!ごめん」
さっき押した時素直に動いていたのは伊織くんがわざとやっていたからなんだ。
一歩も動くことなく、ゆるりとこちらを振り返ってくる。
「…………」
前髪の奥の瞳と視線が交差する。
この瞳はいつも私の心臓をざわざわとさせる。
「………迷惑じゃなければ」
「迷惑なわけないよ。ゆっくりしていって」
「ありがとうございます」
ふっと口元を緩めるように笑うと、雷斗に呼ばれてリビングを出ていった。
その後ろ姿を見送って慌ててキッチンへと戻り洗い物の続きをする。