あまく翻弄される
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「──お姉さん」
もうすぐで校門を通り過ぎるといったところで聞きなれない言葉で、聞き慣れた低音が耳について慌てて振り返る。
艶やかな黒髪がさらりと揺れて、両耳につけたピアスが太陽の光を反射していて眩しい。
近くの高校の学ランの制服のまま優雅に歩いてきた彼は私の前に立つと、長い前髪の隙間から澄んだ瞳をこちらへ向けて僅かに屈むと鼻がぶつかりそうなほどの至近距離でゆるりと微笑んだ。
「──鳴さん、捕獲」
思わず息を呑む。
色っぽいその表情にドギマギしながら何とか平常心を装って彼の名前を呼ぶ。
「……伊織くん?」
「はい」