あまく翻弄される

「………それで、」

温度のない声で静かに言葉を落とすと、くるりとこちらを向く。

聞いた事のないほど冷えきった声にどきりと心臓が嫌な音を奏でる。
そんな時に限って伊織くんの瞳は前髪に隠れてよく見えない。


「鳴さん。何してるんです?」

「……」


えへへ。なんてこの期に及んで笑って誤魔化そうとした瞬間、ようやく見えた澄んだ瞳は氷のように冷たさを纏っていて口を噤む。


「鳴さん」


……正直、なんて言ったらいいか分からなかった。

伊織くんは女に慣れてるかもしれないけど私は慣れてないから男慣れしようとして。と伝えたとすると、何故男慣れする必要が?と聞かれて、伊織くんが刺激強すぎるから。なんて言った途端、今が比じゃないほど冷たい目で見られる。

なんだこの女なんて思われて絶対引かれる。


情けなくてずるずると座り込むと、伊織くんも膝を折って目の前にしゃがみ込んだ。

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