あまく翻弄される
「……絶対引かない?」
「はい」
食い気味で即答してくるから思わず笑っちゃう。
だからさっきよりも安心して伝えられた。
「……ちょっと男の人に慣れてみたかった」
「……」
「でもやっぱり怖くなっちゃった」
口元だけで笑ってみるけど、伊織くんの瞳が真剣でその笑みもすぐにやめた。
「………何で男慣れ?」
ふいに伊織くんが私の手を取る。
「…………」
「鳴さん」
黙る私の名前を呼ぶ伊織くんの声はいつもと変わらないけど、なんだか雰囲気が柔らかいような気がしてその瞳を覗き込む。
「……伊織くん、笑ってるよね」
「………ほんと、鳴さんって馬鹿」
「ばか!?」
雷斗じゃなくて伊織くんによる突然の暴言に勢いよく目を見開く。
「俺に翻弄されてる鳴さん可愛い」
何かもを悟ったようにそう言った伊織くんは私と目を合わせたまま、掴まれていた手首を口元へ持っていき、そっと唇を落とした。
「…………伊織くんはかわいくない…」
「そう?」
「…………年下のくせに」
「──そんな年下に翻弄されてるくせに」