あまく翻弄される
5
「おかえり、鳴さん。おじゃましてます」
ノノちゃんと別れて自宅に帰ると、ばったりとリビングへ続く廊下で伊織くんと鉢合わせする。
「あ、うん。ただいま。ゆっくりしていってね」
「………」
「……ど、どうしたの?」
無言でこちらへ近づくと、ずいっと顔を覗き込むように近付いてきた。
「何かありました?」
いつものように接してたはずなのに目敏く問われ、あからさまに視線を泳がせてしまう。
「え?いや、何もないよ、うん」
「……俺には言いづらいことですか?」
「そんなことないよ。本当に何もないよ、大丈夫」
「……そうですか」
伊織くんは納得していないような表情のままそう言うと、私の髪に触れて耳へとかける。