あまく翻弄される
どれくらい眠っただろうか。
一時間かはたまたそれ以上か。ぐっしょりと濡れた布団とは反対に頭は妙に冴えていた。
きっと熱はもう下がっている。
ふと、時計の針の音以外、静寂が占める部屋で微かに服の擦れる音をきいた。
その正体を確かめようとおそるおそる薄目で盗み見る。
──見慣れた黒髪。雷斗と同じ制服。
そこにいるはずのない伊織くんが見えて大きく目を見開いて勢いよく起き上がる。
「………い、伊織くん!?」
困惑する私とは反対に伊織くんは落ち着き払ってにこりと微笑んだ。
「ああ、おはようございます。鳴さん」
「……なんで伊織くんがここに?」
「雷斗から聞いたんです。……俺のせいですよね」
声を落とした伊織くんに慌てて否定する。
それと同時に、雷斗め、知恵熱ってばらしたな…とふつふつと心の中で怒る。心の中の雷斗はてへっと片手を頭の上に回してウインクをしながら舌を出していた。
そんなくだらないこと考えている場合じゃない。
落ち込む伊織くんを励まさないと。想像の雷斗を追い払うようふるふると首を振る。
「え!そんなんじゃないよ」
「徐々に距離を詰めていくつもりだったんですけど焦っちゃいました。すみません」
「謝らないでよ、伊織くん……」
「……はい」
伊織くんの手を取って頬に当てる。体温の低いその手がすごく心地よかった。