あまく翻弄される
そしてこんな時に限ってタイミングの悪いことに、
「おはようございます鳴さん」
「……い、おりくん…」
「………鳴さん?」
後ろから伊織くんの声がした。
「お、おはよう!伊織くん」
「……」
「えーと、今日もいい天気だね…!」
「今日雨です」
背を向けたまま、言葉を重ねる私を不審がっているのはわかるけど、今は振り返れそうになくて顔を合わすことなく伊織くんの前から逃げ出す方法を必死で考える。
そのせいで何を言っているのか自分でも支離死滅になりながら話していると、さらに訝しんだ伊織くんは気配もなく顔を覗き込んできた。
そして目をまんまるく開いた。
「……顔、赤い」
「!!」
その声にさらに頬の熱が上がる。はずかしい。
何もしてないのに顔を赤くするなんて思春期すぎる…。恥ずかしすぎて死にそう。
「よかった。忘れないでいてくれて」
死にそうになっている私をよそに、伊織くんは目尻を和らげて、ほっとしたように笑った。
その反応が予想外で思わずきょとんと小首を傾げる。