あまく翻弄される

「熱で忘れられたらどうしようかと。でもその反応だと覚えててくれたんですよね」

「………うん。忘れないよ…」


微笑んだ伊織くんに同じように微笑もうとして、ギョッと目を見開いた。


「い、伊織くん、髪切ったの?」

「今?」

「だって……」

伊織くんと顔を合わすのが恥ずかしくてよく見えてなかったから。なんて言わずとも伝わったようで、くすくすと笑われる。

それに頬を少し膨らませて怒ってますアピールを形だけすると、


「怒らないで?鳴さん」


頬をするりと撫でられ、そこに軽く唇を落とされる。
あまりの鮮やかな手口に一瞬キスされたことにも気付かず、じわじわと頬に熱が上がってくる。


「あまり照れてばっかりだと茹で上がっちゃいますよ」

「伊織くん!」

「すみません。でも、知恵熱はもう出さないでくださいね」

──まじで心配する。

耳元で真剣に囁くように懇願するようにそう言われ、からかってくる伊織くんを怒ろうとした気力も萎んでいく。


「これはもう伊織くん次第」

「俺?」

「そう。恋愛初心者には優しくして」

「それは……」


奥に熱を隠し持った瞳と絡み合う。
ゆるやかに唇が弧を描いて、艶やかに微笑む。


「………難しそうです」


あまりに綺麗な笑顔でそう言うから思わず目を見開いた。
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