あまく翻弄される
聞きなれた声に勢いよく振り返ると見慣れた学ラン姿。
大きく目を見開いてこちらを見ていた。


「伊織くん!」


ぱああと顔を輝かせて慌てて駆け寄る。



「どうしてここに?何かありました?」

「……あの」



心配そうな伊織くんに、一緒に帰ろうと思って迎えに来たなんて言える雰囲気もなく、ぴしりと固まる。


「ええっと……」

「ゆっくりで大丈夫です」

「………、」

「俺じゃなくて雷斗呼んできましょうか」

「……ま、待って」


何て言おうか思案しているうちに雷斗を呼びに行こうとする伊織くんの袖を慌てて掴んで止める。

──浮かれすぎ。年上のくせに余裕ない。
なんて頭の隅で声が聞こえるけどもうどうにでもなれとばかりに口を開く。


「伊織くんと一緒に帰ろうと思って迎えに来たの」

「…………」


決死の思いで口を開いたのに容赦なく沈黙がおちる。
浮かれすぎだろって思ったかな。呆れられたかな。
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