あまく翻弄される
もうすぐ家に着くといったところで、ふいに伊織くんが口を開いた。
「………鳴さん」
「うん?」
「早く俺に追いついてくださいね」
どういうことだろう?と小首を傾げた私に掠めるように柔らかな何かが一瞬触れた。
それと同時に離れていった石鹸の匂い。
「……え?」
「今はこれで我慢してあげます」
「…………え?」
ぺろりと唇を舐めた伊織くんにやっと状況を理解してカアッと赤くなる。
ぽかぽかとその肩をたたく。
「こ、こんなところで…!」
「誰も見てませんよ」
ぺろりと小さく舌を出した伊織くんは悪戯っぽく笑みをみせた。