あまく翻弄される
「見てるかもしれないでしょ?」

「それはないです」


伊織くんは胡乱げな私の視線に気付くと唇をゆるめた。


「俺が見させない」

「……」

「その表情は俺だけのものだから」


ぱくぱくと口を開閉させて赤面する私の髪に手を差し込んで、耳にかける。


「……それ好きなの?」


話を逸らすように聞いた私に、首を傾げた伊織くん。

頬、熱い。

熱を覚ますように繋いでない手の甲を頬に当てる。


「髪を耳にかけるやつ」

「ああ…好きというか、鳴さんの顔が良く見えるので。それに、照れるとよく耳が真っ赤になって可愛いから」


バッと隠すように耳を塞ぐ。
くすくすと肩を揺らして笑ってる伊織くん。

いつか伊織くんのせいで心臓とまっちゃいそう。
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