あまく翻弄される

「雷斗は毎日鳴さんの料理食べれて羨ましいです」

「……そんなにいいもんじゃないと思うけど」

「そんなことないです。俺も鳴さんの弟になりたい」

「もう伊織くんは弟みたいなものだよ」


雷斗が頻繁に家に連れてくるし。


そうやって呑気にしていたからか、不意に黒い足が行く手を遮るように前方に伸びてきて私の左側の壁に着地する。
驚きで心臓がバクバクと早鐘のごとく脈打つ。

その足をおずおずと視線でたどっていくと、車道側に立つ制服姿の伊織くんが器用に右足を壁につき、艶やかに微笑んだ。


──あ、これダメなやつ。


真っ黒の澄んだ瞳がこちらを貫くように真っ直ぐに見つめてくる。

それに捕えられたらもう逃げることなどできない。

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